23.偽装の恋人になったのだが


 九条さんがタピオカミルクコーヒー(時数稼ぎのために選んだわけではありません by 日向 照)を飲み終わり、僕たちはカフェから出た。


 約束通りに九条さんが僕の分も払い、それを見たおばさんに「彼女ちゃんに奢らせたらダメでしょ」と言われたりもしたが、そう大した事ではない。


 僕は周りに知り合いがいない事を確認してから言った。


「で、これで僕たちは晴れて偽装恋人となったわけだが」

「はい」

「どこまでのイチャツキが許容範囲かはっきりさせておきたい」

「私はその、どこまででも構いませんけど……」


 九条はスカートの裾を押さえて少し顔を赤らめながら上目遣いで言う。


 僕はつい頭に浮かんできてしまったアンナ事やコンナ事を鋼の精神で抑えつけた。

 そして、溜息を吐く。


「はあ、この童貞殺しめ……」

「どうしました、処女殺し?」


 ……。


「ともかく、僕的には恋人繋ぎとかハグとかまでは許容範囲かな」

「つまりはキスとか、その……アレとかが範囲外と言う事ですね?」


 ……。


「うん、まあ、そういう事だね」

「あ、あの!」

「ん?」

「連絡先を交換しましょう!」


 ああ、そういえばまだしてなかったか。


 僕はスマホを取り出し、LONEのバーコード画面を九条に見せた。

 九条はスマホを取り出し、それにかざす。


『sanaと知り合いかも?』


「このsanaが九条さんで合ってるよね?」


 最近有名になってきた歌い手さんの画像をアイコンにしているようだ。


「ああ、はい。それです」


『sanaと友だちになりました。』


「これからよろしくね」

「はい、こちらこそ」

「ところで」


「「––––––これからどうする(します)?」」


 僕は図書館に行く予定だ。

 時間はまあまあ過ぎちゃったけど、せっかくここまで来たんだし、予約した本だけでも受け取っておきたい。


 というわけなので、そう言う。


「僕は九条さんと出会わなかったら、図書館に行くつもりだったけど」


 九条は驚いたような顔をした。


「あら、奇遇ですね。私も図書館に行くつもりでした。それなら、今日から見せつけ始めちゃいますか?」

「どうせウチの高校の人なんていないと思うけど……。まあ、いいか」


 時計を見るともう正午だ。妹の部活が終わるのが、午後1時だから帰ってくるのは1時40分ぐらいになるだろう。1時に電車に乗れればちょうどいいぐらいに家に帰れる。

 つまりは1時間ほど暇なのだ。


 僕は九条さんに手を差し出した。

 恋人繋ぎ。二人の指が絡む。


 人はなんでたったこれだけの事でドキドキしちゃうのかな。


「片倉さん、今からでもやめていいんですよ?」

「いや、ここまで来たら終わりまで付き合ってやるさ」


 僕は苦笑しながら言った。

 とりあえず二人で図書館まで歩み出した。



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