21.ようはタピオカなのだが
トイレが終わったらしく、九条さんが戻ってきた頃には、僕はココアを飲み終わっていた。
僕はこう見えて猫舌だから、あったかいココアが少し冷めるまで待っていた。そこからさらにチビチビと飲んで飲み終わったぐらいだから、相当に時間が経ってるんだろうな。
「ごめんなさい」
「いや、大丈夫だよ」
九条さんのタピオカミルクコーヒーは届けられた瞬間に僕がからかったため、まだ全く手をつけられていないようだ。
九条さんが髪をかきあげて、ストローを咥える。やっぱりお嬢様は上品だ。さっきまでが冗談かと思ってしまうレベル。
ストローをタピオカが昇っていく。
ちょっと面白かったので、ボンヤリとその様子を眺めていたら、九条さんはキョトンとした表情でコチラを向いていた。
「いや、ちょっと(タピオカに)見惚れてただけだよ」
ストローを昇っていくタピオカの動きが止まった。
九条さんの顔がみるみる赤くなる。瞳と顔が同じ色、って不思議な事もあるもんだね。
どうやら、タピオカが詰まったらしく咳き込み始めた。
「大丈夫?」
急に咳き込んだ九条さんを心配し、思わず声をかけると、彼女は落ち着いたらしく返答した。いや、質問を返した。
「……誰のせいだと思っているんですか?」
さあ? ちょっと弄った時もあったけど、これに関しては心当たりがない。
「この処女殺し。今までさぞかしモテてたでしょうね」
「いや、告白なんて一度、いや、二度か、しかされた事ないけど」
こんな女子みたいな顔にモテる要素はないし、性格も割と捻くれている。こんな男がモテるのだろうか(いや、そんな事はない)。
そういえば、『童貞殺し』はよく聞くけれど、『処女殺し』ってなかなか聞かないよね。僕は聞いたのはこれが初めてだ。
だけど、ちょっと誤用に聞こえるのは気のせいだろうか(いや、そんな事はない)。
「しっかり古典の復習してないでください」
うん。昨日の古典で習った『反語』だ。まあ、中学で一回習ったんだけど。
けど、その前になに心読んでんのよ。
楓もそうだし、玲亜だってそうだったけど、女子って勘鋭いよね。
脳波でもキャッチしているのだろうか。
羨ましい。
ともかく、月曜のアレは何が原因だったんだろうか。僕がモテないのは、ちょっと上で証明したけど、えっと、春香さんだったっけ、彼女は罰ゲームでも食らったのかな。
うん、きっとそういう事なんだろう。
はい、解決。
「ちょっと私の前で他の女の事を考えないでください」
不貞腐れたような顔をしたお嬢様。
だけど、忘れないでほしい。君と僕は(ほとんど)初対面なんだ。そんな彼女みたいなツラをされても困る。
九条さんは一度、大きく瞬きした。
「––––––いいえ、とりあえず、私たちは恋人という設定なんですから」
九条さんはさっきまでと同じ笑みを浮かべながら、言った。だけど、その雰囲気だけはさっきまでとは一切の別物だった。
「はあ、それが本来の目的か。ようやく本題に入るわけだね。それにしても捻くれ過ぎだとは思うけど」
僕は静かに言った。
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