20.イチャイチャはしていないと思うのだが


 互いに恥ずかしい気分になり、少し気まずい雰囲気になった。

 ので、店員さんを呼ぶ。


「ともかく、九条さんは注文決まった?」

「もちろんですよ」


 少し時間が経ち、店員さんが来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「はい、僕はミルクココアでお願いします」

「私はタピオカミルクコーヒーで」


 タピオカ……。なんだか、微妙な線で来たな、この娘。ちょっと前なら思い切り流行だったんだけど、少し廃れて来た伝説の飲料だ。


「かしこまりました」


 と言って店員さんは一度消えた。


 九条さんは元気を取り戻したみたい。


「片倉さん」

「なんだい?」

「注文がココアって可愛いですね!」

「……友達と来る時はコーヒーにしてる」


「そういえば、なんで女装しているんですか? ガチモンで一瞬、女の子かと思いましたよ」


 ……女装したつもりは一切ないんだけど。


「ここ、学校から近いでしょ?」

「近いですね」

「知り合いと逢う可能性がまあまあある」

「はい」

「あまり話さない知り合いと逢うと気まずいでしょ?」

「そうですね」


「そう悩んだ時に、なんで学校行く時、目を薄く開けたり、マスクをつけたり、声を低くしたりしたのかを考えた」


「ほう」

「それって、自分が女子っぽい系統の男子、って言われてたからなんだよ」


 正直、今でこそ笑って言えるものの、『女の子みたいだよね』は小学生のピュアな心にはキツかった。


「なら、逆に全力で女子だか男子だかわからなくなれば、気付かれないか、と思ったんだ」


 学校でボロを出てないはずだから。


 まあ、九条さんには気付かれてしまったわけだけど。


「私は階段で助けていただいた時にその美しい瞳が印象に残っていました」


 少し顔を赤くしながら言う九条さん。


「なるほど。コンタクトをつければよかったのか……」


 僕は少し後悔したが、今更である。


「ミルクココアお一つとタピオカミルクコーヒーがお一つ。そして、限定のカップケーキでございます」


 んん?

 僕は耳を疑いながらも、ココアを受け取った。


 恐る恐る九条さんに目を向けると––––––


 ––––––てへぺろ!


 可愛いかったから許す。


 と思っていたのか!

 

 僕はその瞬間にスマホで一瞬でカメラアプリを起動し、何食わぬ顔のまま、九条さんの『てへぺろ』を撮った。


 顔を赤くしながら固まる九条さん。

 少し経ってから騒ぎ始めた。


「な、なな、何勝手に撮っているんですか!」


「だって、の『てへぺろ』がとっても可愛かったんだもん」


 てへぺろ(僕)!


 九条さんの赤かった顔が更に赤くなる。


「と、とと、トイレ行ってきます!」


 そのままトイレらしき方向へと駆け出した。


 女子の敵? なんとでも言え。


 ならこんな事も普通に起こるだろ。つまりは恋人って言った九条さんが悪いわけだ。

 けど、僕だって恥ずかしいよ。


 さっきの店員さんが小声で話しかけてきた。


「可愛い彼女さんですね。しっかりリードしてあげないといけませんよ」


 ほっといてください。カレカノじゃないし。


「アイツ、大人しそうな顔しておきながら、肉食系なんで」


 笑顔でテキトーな事を言ったら、店員さんは少し赤い顔をして去っていった。



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