19.少女にカフェに連れられたのだが


 そして、僕はウキウキとした少女に連れられた。

 会話こそなかったものの不思議と気まずい気分にはならなかった。


 そして、カフェに入る。

 少し黄色の混じった照明に照らされたお洒落なカフェ。


 少女はどうやら常連のようで店員さんと話している。


 ……何をしているんだ?

 と疑う僕に少女は話しかけた。


「さあ、席に座りましょう。ついて来てください」


 僕の手首を掴んでグイグイ進む少女。

 その光景を微笑ましく見守る店員や他の客。


 うん、カレカノにしか見えないよね、とふと思い、少し顔が赤くなってしまう。


 とりあえず席に座った。

 二人席なので、どうしても見つめ合ってしまう。正直ちょっと恥ずかしいかな。


 僕は口を開いた。


「自己紹介は必要かな?」


「あ、そうですね。私は九条 咲奈くじょう さなと言います」


 いや、その流れだと僕から紹介すべきじゃないの。


 ともかく。


「九条か。……藤原五摂家にもそんな家があったっけ?」


 独り言のつもりだったのだが、九条さんは驚いたような顔をした。


 あ、名前被りじゃなくてガチモンで由緒あるんだ。


「おや、正解です。まあ、本家ではありませんけどね。それにしても、五摂家なんてマニアックな知識、よく知っていますね」


 マニアック、……なのか?


「名前だけだよ」


 藤原五摂家、ってのは藤原の中でも特に地位の高かった、一条、二条、鷹司、近衛、そして、九条。これらの家の総称らしい。

 藤原 道長の子孫って言えば、まあ、偉い事はわかってくれるはず。

 関白や摂政は原則、この五つの家からしか出なかったそう。


 もちろん、現在も続いており、伊勢神宮だとか、平安神宮だとかの宮司をやっている家もあるらしい。


 あと、噂なんだけど、マッカーサーの魔の手から逃れ、財閥を今も運営している家があるらしい。財閥うんぬんがなくても、もともとトップクラスの金持ち集団なんだけどね。


「……というか、めちゃくちゃ大物じゃないの」

「それはいいんです。貴方は?」

「片倉 弥代。片倉って苗字だけど、元公家でも元武家でもなく、普通に平民だった」

「片倉さん、私は家柄なんてどうでもいいと思いますよ」


 九条さんは優しく笑った。

 嫌味にしか聞こえない。


「そっか。それなら九条さんの事はとして扱う事にしよう」

「……そこはただの咲奈、じゃないんですね」


 ちょっぴり残念そうな九条さん。美少女はどんな表情でも様になるから、不思議に思う。


「生憎、詳しい付き合いがない人を名前で呼べるほど、僕の心臓は強くないんだ」

「やっぱり人を名前で呼ぶのって、緊張するモノなんですか?」


 俺は考える。


「う〜ん、人それぞれだと思うけど」

「弥代君って面白いですね」

「やめてよ。恥ずかしい」

「弥代君って可愛いですね」

「やめてよ。……それトラウマだから」

「ごめんなさい……」


 急にションボリした九条さん。階段の時も割と印象はあったけど、感情の起伏が激しい。


 僕が悪いわけじゃないんだけど、ちょっと申し訳ない気持ちになる。

 なら、名前で呼んでみようかな。


「––––––まあ、トラウマって言ってもそう大した事じゃないし、大丈夫だよ、咲奈」


 僕が爽やかめに言うと、九条さんは顔を逸らす。

 髪の毛の隙間から僅かに覗いた耳が赤くなっていた。


 九条さんは顔を逸らしたまま、ポツリと呟いた。


「……それはずるいです、片倉さん」


 弥代から片倉に戻った。


 ね? 恥ずかしいでしょ?

 呼ぶ側ぼくだって恥ずかしいもん。




 ==================

 お久しぶり、日向 照です。

 今回は藤原五摂家について軽く話しておこうと思います。上で述べた事はだいたい本当ですが、財閥関連は嘘です。

 現在の当主の方々は実際、お金持ちなようですが、家柄のみで成り上がったわけではありません。主人公にこう言わせたのは、とりあえずヒロインの財力をアピールしたかっただけですので、ご承知ください。

 あと、カクヨムでラブコメを読み漁っていて思ったんですけど、九条って苗字なかなか多いですね。



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