18.少女はお礼がしたいらしいのだが


「また助けられてしまいましたね……」


 少女は顔を赤く染めながら言った。


 何よ、この可愛い生物は。

 気が抜けたら、見惚れてしまいそうなんですけど。


「別に、僕は気にしてないよ。けど、怪我がなくて良かった。それじゃあ、これからは気をつけなよ。バイバイ」


 という事で、僕は見惚れてしまう前にこの場を去ろうとした。


 しかし、


「待ってください!」


 僕は呼び止められた。


 手首を掴まれ、思わず振り返る。


「お礼をさせてください」


 身長差の問題だろう、僕を見つめる少女は『典型的可愛い』の一つである、上目遣いをしていた。


「生憎、僕は忙しいんだけど……」


 嘘である。


「私、貴方に助けられたのは、2回目なんです。1回目の時、あまりの恥ずかしさに貴方から逃げてしまいました。……このまま、何もできなかったとしたら、って考えると怖いんです」

「いいんだよ。逃げられてしまうレベルの残念少年に無理してお礼をしなくても」


「–––––ち、違いますっ!」


 少女は大声を上げた。


「貴方はそんな残念な人ではありません。とっさにでも人を助けられる優しい人です!」


 僕は妹によくヨイショされるため、褒められる事には慣れている。この程度で別に照れたりはしない。


 重ねて言うが、この程度で照れたりはしない。


 だけど、なぜ僕をそこまで弁護するの?

 過大評価がすぎると思うんだけど。


「それでも怯えさせちゃったのは事実じゃないの」

「怯えて、じゃないです。貴方が、その、あまりに格好良かったから……」


 少女のその照れながらのセリフに、僕は思わずドキッとしてしまった。


 熱い。顔が熱い。

 本当に美少女って得だよね。こんなの断れないじゃん。

 断ったら、罪悪感で死んじゃうかもしれない。


 一途なはずの僕の心がここまで弄ばれるとは。僕は恋している事もあって、貞操に関しては強烈な自制心を持っている自覚があるのに。

 いや、今は体操関係ないか。


 毎日のように玲亜の誘惑を拒絶する事から、楓から『真なる処女パーフェクトメイデン』って呼ばれたりしてたけど。『童貞』と言うと彼女がいないだけでヤリたい勢、『処女』と言うとなぜか自らの意思で断っている、っていう勝手なイメージがあるらしく、そこから『童貞』でなく、『処女』にしたらしい。


 それはともかく、『真なる処女パーフェクトメイデン』たる僕(どうやらこのあだ名は僕自身、そこそこ気に入っているらしい)がこうも笑顔だけで心が動かされるだなんて、認めるわけにはいかないのだ。


 ともかく、僕は図書館に行きたい。

 そうなると、もう一周回って少女の提案を受けるのが一番早いかな。


「はあ、わかったよ。それなら、僕が折れる事にしよう。それで、どんなお礼をしてくれるんだ?」

「それでは、私が持つので、二人でお茶をしましょう」


 少女は嬉しそうに笑った。



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