17.実はケンカは強いのだが


 できる限り目立ちたくない勢の僕は駅を出たあと、裏路地に入っていった。大通りに比べたら人は少ない。と言っても、大通りも車ばかりで人なんてほとんどいないんだけどね。


 路地裏って何か、冒険の予感がするんだ。

 うん、同感は求めていない。


 それじゃあ、と僕は足を踏み出し––––––


「––––––やめてくださいっ‼︎」


 え? 何?

 路地裏入ったら、ダメなの?


 と一瞬思ったけれど、見回す限り、僕を止めようとしている人はいないみたい。


 ……という事は、誰か襲われている、って事かな。


 仕方がないか。様子を見に行くとしよう。


 ……

 ………

 …………


 僕は声のした方へ走った。


 果たしてそこでは、漫画などでアリガチな展開のウチの一つが繰り広げられていた。

 実際に見たのは初めてだけど。


 つまり––––––


「––––––だから、大声出さなくていいだろ、嬢ちゃん。俺たちは楽しい事をしようと誘っているだけなんだから?」


 ––––––ちょっと強引なリンチ系ナンパであった。


 被害者の少女は俺に気付いたようだ。助けを願うような表情を向ける。

 まあ、元々ここまで来て逃げるつもりはないけどさ。


 彼女の視線がよそに向いた事に気付いた不良がこちらを見た。


「あ、何だぁ、お前」


 虫唾が走るレベルに不愉快だ。

 僕は思わず殴りたくなる気分を抑える。


 まずは会話だ。


「あの、彼女が困っているのが、わからないですか?」


 相手は三人。体格や姿勢から判断するかぎり、余裕で勝てるだろうが、それでその少女を巻き込んでしまっては元も子もない。


「というか、本当に貴方達が彼女を楽しませる事ができるかどうか微妙ですもんね。その手法でどれだけの女子と遊んできたのか知りませんけど、どうせまともな彼女できた事ないでしょ?」


 不良たちは全員揃って震え始めた。


 うん、僕も少し言いすぎちゃったとは思う。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ‼︎」


 うわ、殴ってきた。

 と思いながらも、僕の身体は自然に動く。

 姉さんにしごかれた成果かな。


 僕はそのパンチをかわす。


 素人ってパンチを走りながら打ったりするんだよね。格闘家とかは踏み込みながら打つ事はあっても、ダッシュしながら打ったりはしない。

 ガラ空きですよ、と思いながら、僕は相手の足を払う。


 そして、相手の身体が地面から離れた一瞬で、その身体を抱えて地面に叩き付けた。


 まあ、たいした事はないかな。


 残りのヤツらは唖然として、こちらを見る。


「さあて、調子に乗っていたのは、どっちかな〜?」


 ちょっと強面コワモテで睨んだら、一目散に逃げていった。

 今の僕は「女の子に見える」とお墨付きを頂いているし、そんな男子にボコボコにされる不良、って周りから見たら滑稽だろうね。


 さて。僕は少女に優しく話しかけた。

 さっきの様子とはある意味ギャップ。


「とりあえず、怪我はないか?」


 彼女は顔を上げた。


 艶がありながら、少し乱れた黒髪。その隙間から、紅い瞳が覗く。濡れた瞳はどこか魔性的な輝きを灯していた。


「あ、あの……」


 鈴が鳴るような美しい声が響く。

 その声は少し怯えているようにも聞こえた。


「ん?」


 少しはにかみながら、何かを言おうとする彼女。


「あ、あの……、その……」

「どうした?」


 僕は怯えさせないよう、優しく聞いた。

 どこかほうけた少女。

 その姿があの日の彼女と重なり–––––


 –––––ってちょっと待ってほしい。この展開どこかで見た気がするんだけど。


 思わず少女を凝視する。

 少女も僕を見つめる。


 そして、その1秒後、路地裏に青年と少女の叫び声が響いた。




 ==================

 どうも、日向です。

 初めての暴力シーンが入りました。

 まあ、八代君が強すぎて生々しい暴力にはなりませんでしたけど。

 それとヒロインがまともに登場しましたね。

 蛇足も多かった気がしますが、ようやくラブコメっぽくなります。



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