15.妹にアレを教えてしまったのだが


 ちょっと気まずい気分の中での食事だったが、玲亜の様子が落ち着いてきた事もあり、少しずつ雰囲気が戻ってきた。


「ただ、実際、お兄ちゃんは美形ですので、どんな女が寄ってくるかわかりません。あまり仲良くしない方がいいかと」


 真剣な口調で言う玲亜。頼むから、俺の青春のためにも早く兄離れしてほしい(切実)。


 ん? それなら玲亜と付き合えばいいじゃん?


 いやいや、俺にとってアイツはどうしても妹でしかない。めちゃくちゃ可愛いけど、あくまで、妹として、だ。

 それに法律では兄妹の結婚が認められない。玲亜との関係は義理であるものの、実際、


 それにまずな問題、俺には好きな人がいるし。


 俺の中では、付き合う= 結婚 だから、そう自動車のように乗り換える事はできない。家には車も車庫もないんだけどさ。


「も、もちろんだとも……」


 圧倒的な気配に押され、うっかり目を逸らしてしまう俺。

 兄の威厳とは一体……。


「あれ、弥代先輩。なんでそんなたどたどしい口調なんです?」


 ちょっ、茜?


「もしかして、彼女でもできちゃった?」


 教えてくれ、……俺はなぜ、修羅場っぽくなっているんだ?


「……ははは、そんなわけないだろ?」

「それでも、はきっかけとしては充分でしょ?」


 楓は余計な事を言わないでくれ。さっきもそうだったけど、掻き回すだけ掻き回すのはやめてほしい。


 俺を餌にしたら、妹たちコイツらはあっという間に釣れるぞ、マジで。


「「ほほう、アレとは一体?」」


 ほら、食いついた……。


「「お兄ちゃん(弥代先輩)、……教えて?」」


 上目遣いで俺を見つめる二人の少女。


 ここで黙っていると、俺の良心が消え失せそうだ。二人ともどこでこんなの覚えてきたんだよ……。


 仕方がないから、朝の階段の件を二人に話す。


「はぁ。聞いて楽しい話じゃないぞ?」

「構いません。お兄ちゃんに何があったのか。これは玲亜の興味ですから」

「じゃあ、話すぞ。アレは今日の登校の時の事だった––––––」


(省略)


「––––––ってなわけ。これで満足か?」

「……それ、完全に惚れられてますよ」


 茜がこの世の終わりのような顔をして言った。 

 玲亜に至っては心此処に有らずと言った表情で「……羨ましい」と呟く始末。


「おい、玲亜」


 俺が呼びかけると玲亜は顔を上げた。


「はい、なんでしょうか?」

「お前、家の階段で転ばないでくれよ?」


 玲亜は「なぜわかったのです?」とでも言いたげな顔をするが、これは兄妹の絆的なヤツである。


 つーか、ここまで懐く少女にこの話をしたら、そりゃ、やりたくなるだろうよ。女子側からしたら、好きな人にされたら、たぶん嬉しいだろうから。


 俺はふと時計を見上げて言った。


「それじゃ、そろそろ帰ろうかな」

「ああ、もうこんな時間なんだ」


 席に座っていたみんなが立ち上がる。


 楓と茜はすこし寂しそうな顔で言った。


「「弥代(先輩)、玲亜(ちゃん)また明日」」


 俺と玲亜も答えた。


「「ああ(はい)、また明日」」



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