14.幼馴染みとご飯を食べるのだが


 ほとんど何もしなかった俺と永遠のMVP玲亜でボコボコにした後、俺と茜のコンビで一戦(無事に勝利)、その後、ネット対戦で玲亜が5連勝したあたりで皿とスプーンを持った楓と鍋を抱えたおばさんが部屋に入ってきた。


「カレー、できたわよ」


 楓のトイレ、遅かったな。そういえば、玲亜もそうなんだよ。実は女子トイレって時が止まっているのか……?


「弥代、今失礼な事考えていたでしょう?」


 やっぱり読心術でも習得しているのか。


「ご想像にお任せします。で、俺で遊ぶのはともかく、せっかくカレーできたなら、早く食べようぜ」


 と俺は強引に話を戻す。


「……」

「お兄ちゃん、少し強引ですよ。……そういうところもまた素敵なんですけどね」


 ボソリと言った後半は俺には聞こえなかった。しかし、どうせヨイショだとわかっているのでスルー。


 おばさんが笑う。


「ふふふ。貴方たち、本当の兄妹みたいね」


 本当に疑問に思っている。

 この人、マジで何者……?


「ともかく、夜ご飯にしましょう」


 みんなが席に座ると、おばさんが皿に盛り付ける。


 目の前には美味しそうなカレーライス。

 ルウとご飯の色のコントラスト––––––


 「……(無言の圧力)」


 ––––––はともかくとして、俺はスプーンを口に入れる。


 ––––––うん、うまい!


 そういう系統の小説ではないので、食レポは期待しないでくれ。


 ただ、スパイスの辛さが、普段はあまり感じないお米の甘さを感じさせて絶妙にマッチしている。わからないけど。


 うん、やっぱり食レポの才能はないな。


 せっかく呼ばれたのに静かな食卓。これはちょっと寂しい。


 と思ったらしい楓が玲亜に振る。


「ねえ、玲亜ちゃん」

「はい、なんでしょうか?」


 少し戸惑うような玲亜。まあ、急に指名されたらこうなるだろうな。それに玲亜だし。


「もし弥代に彼女ができたらどう思う?」


 あ、その話題は禁句だぞ!

 と俺が止める間もなく、食卓が冷え始めた。まるで氷河期でも来たかのようだ。

 玲亜の方を見ると、もともと白い顔がさらに青白くなり、身体がガタガタと震え、歯をガチガチと鳴らす。前髪に隠れた瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「お兄ちゃん、……嫌だよ。玲亜から離れないで」


 俺の服を弱々しく握りながら、玲亜は呟く。


 おわかりいただけただろうか。俺が恋愛しようにもし辛いわけである。

 ……約束の日までにどうにかしないとな。


「大丈夫。今はお前だけだからな」


 俺は玲亜の頭を撫でながら、楓をジト目で睨んだ。


「……だから、この話題はダメだって言っただろ?」


 俺としても玲亜をどうにかしなければ、とは思っているが、せめて俺以上に感情を向けられる存在ができてからだ。

 ただ、時間はかかるだろう。玲亜が俺を認めたあの時だって、物凄く苦労していたんだから。


「……うん、ごめん」


 珍しく申し訳なさそうな楓。

 そんな顔されたら、俺まで罪悪感を感じてしまうじゃないか……。


 結局、食卓は楓が喋る前より酷い雰囲気になってしまった。



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