05.別に気になったりしていないのだが


 俺が復習を始めて5分経ったぐらいか、教室の扉が開いた。


 教室に人が入ってくる。


「お前ら、何でそんなに早いんだよ……」


 今日こそは一番だと思ったのに、と彼は続けた。


 こいつは梶 健太郎かじ けんたろう。俺がクラスでよく話す友達だ。入学直後、なぜかは知らんが、からんできて気付いたら仲良くなっていた。


 苗字からわかるだろうが、俺の前の席である。


「勉強してるのがわからんのか」


 俺はシャーペンを動かしながら言った。


「夜にやらないのかよ」

「生憎、家では妹に構ってやらないといけないからな」


 俺はちょっとキリッとした顔で言った。


 梶が呟く。


「片倉がシスコンってちょっと想像できないぞ。唐橋さんと朝からイチャイチャしやがって……、って思ってたけど、違うのか」


 俺たちは二人揃って否定する。


「梶、幼馴染みって、実際兄弟みたいなモンだからな。案外恋愛関係に発展する事はないんだよ」


 俺は優しく語りかける。


「私が弥代とイチャイチャなんて、そんなわけないじゃない」


 一方、楓は心底嫌そうに言った。


 セリフその物は完全にツンデレなんだけど、これは本気マジだな、と思わせる。


 だけどさ、そんな顔で言われたらさ、さすがの俺もちょっと傷つくよ……。


「お、おう。……すまなかったな」


 梶の反応もたどたどしい。


 微妙な空気を変えるように梶が言った。


「あ、そういえば、片倉、楓ちゃん、『十大聖人』って知ってるか?」


「ふざけた名称だけど、ようは選ばれた10人って事だろ? 誰が選ぶのか知らないけど、正直、くだらねぇ、と思っている」


 俺がストレートに言うと、梶が驚く。


「そんなに嫌か」

「人に外見だけで価値を付けてる、って事じゃん」


「さっきの娘に初対面で惹かれている弥代がそれを言う?」


 楓が余計な事を言う。


「うるせえ。惹かれてなんかねぇよ」


 なぜだろう、目を逸らして、ぶっきらぼうに答えてしまった。


 顔は赤くなったりしてないよな?


「おい、片倉ツンデレ。どういう事かな? 詳しく聞かせてもらおうじゃな––––––」


 こんな邪悪に染まった笑みは久しぶりに見た。危険な臭いしかしない。


「––––––断る」

「おいおい、俺たち友達だ––––––」

「––––––断る」

「ちょっとだけだから––––––」

「––––––断る」

「楓ちゃん、詳しい話を––––––」


 くそっ。仕方がない。


「––––––楓? 茜にアレを教えちゃうよ?」


 俺は冷たい笑いを浮かべながら、ゆっくりと言った。


 え? 『アレ』ってなんだよって?

 誰にも言わないから脅しになるんだよ。


 楓が顔を青褪める。


 ここまで効果があるとは……。


「わ、私の勘違いだったみたいねー」


 凄く棒読みだが、とりあえず、封じれたぞ。


 凄く不満そうな梶。残念ながら、俺はお前より秩序を優先するんだよ。



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