第11話 激動だぁ!!


 昨日、俺は魔物を初めて倒した!ただの一匹だったが、大きな前進だ。そんな、輝かしい一歩を進んだ俺だが、現在俺はピンチに立たされている。



 笑顔で睨み合う女性が二人。しかし、何故か俺はさっきから寒気が止まらない!もう…寝直して夢落ちにしたい!!現在どうなっているのか?どうしてこうなったのか?では、少しだけ時を遡ろうと思います!!








 朝、昨日の激戦?が嘘みたいにバッチリと目が覚めた!原因は一つ!目の前の美女だ!誰だって?頭の良い皆さんはすでに予想出来ているだろう。そう!目の前の美女の正体は、フィーナさんです!!



 昨日は色々あって、ベッドにダイブする勢いで寝たはずだ。なのに…また目の前にフィーナが居たんです!ミステリーですね!?



 この前は、誘惑に負けて髪を、頭を撫でてしまったが、今回はやらんぞ!?え?今度こそ服を着てるか確認しろ?はっは!前回服を着ていたんだぞ?来ているに決まっているだろ!?なら確認しろ?俺がチキンで出来ないと思っているな?今日は余裕だ!!見てろよ!?



 俺は、恐る恐る掛布団をめくり…すぐに戻した!・・・え?結果報告?ななな、なんもなかったよ?え?何もないわけがない?メイド服!メイド服が見えた!!間違いなく来てたぉ!!動揺し過ぎ?何が見えたか言え?ばばば、バカ言っちゃいけません!正直者=俺!!つまり、嘘何てついてません!!



 ならば、もう一回めくってみせろ?きょ、今日は、めくるのに適さない日なのを忘れていたよ!はっは!今度にしよう、うん。いいからやれ?分かってて言ってるよね!?今、俺ってば色々とやばいんですよ!どうしたら良いか教えて下さい!!



「もっとじっくりと見なくてよろしいのですか?」



 ピシィと俺は石化する。起きていらしたんですね…現行犯ですよ!?どうしたら良いの!?誰か、正解を教えてくれ!!



「暗くて良く見えのぉぉおおお!?」



「これで見えますよね?」



 見てしまった!?バッチリと大きな二つの膨らみを!?そして、目が離せません!!変態?受け入れよう!これは芸術である!!いたっ!?何を投げられようとも目が離せないものは離せないんです!!



「きちんと手入れしているつもりなので、自信はありますが…そんなにじっくり見られてしまうと、流石に照れますね」



「あ、ごめん!」



 その言葉で我に返り、視線を外そうとしたんだが…



「折角ですから、下も見て見ますか?」



 その言葉を受けて、俺は反射的に視線を下げて行ってしまった。あ、おへそも可愛いですね!しかし、ご安心ください!下は、お布団掛かってて大丈夫なんです!見えてたら俺はどうなっていた事か!?え?すでに暴走しているだろ?そんなことは…



「見たいのでしたら、御自分でめくって下さいね?」



 羞恥心を含んだそのフィーナの声で俺はまた理性が飛んだらしい。無意識のうちに、ゆっくりゆっくりと手が布団に伸びて行き…



「和登!おはよう!!・・・何しているのかな?」



 まさか…この俺が修羅場みたいな現場を演出してしまうとは!?俺は今、布団に手を伸ばしたまま動けない!動けば…殺られる!?それくらいの怒気みたいなものを風香から感じる!!



 それもそのはず、彼女から見れば、朝からメイドに手を出している変態高校生の図なのだから!言い訳のしようがない!!どうしたら良いですか?教えて下さい!?



 と、こんな感じの現状なんですよ!フィーナも冗談ですとか言ってくれれば良いのだが、何故か笑顔のまま風香と見つめ合ってます。俺を置いてラヴな展開!の方がまだ救いがあったような気がするくらい、俺の冷や汗が止まりません。マジで誰か助けて下さい…



「和登様、何事も中途半端で止めてしまうのは良くない事だと思います。続きをされてはいかがでしょう?」



 何と!?フィーナさんがとんでもない提案をして来た!?やったぜ!何て続きを出来るわけないでしょう!?いや、見たくないわけではないですよ!?しかし、理性が飛ばされていた先ほどとは違い、しかも、風香が見ている前で続きとか正気に戻った俺が出来るわけがない!?



「和登…続きって何かな?」



 ひぃぃいい!?風香がすっごく怖いんですけど!?ナニコレ!?魔物もにらみ殺せるんじゃないか!?いや、笑顔何だよ?笑顔何だけど…寒気がすっごいのだよ!?怪談話がはだしで逃げ出すレベルですよ、これ!?



「フィーナも服を着た方が良いんじゃないかな?恥ずかしくないの?」



「いえ、普段からしっかり手入れをしているつもりですので、恥ずかしがるものなどございませんよ?」



「そういう問題じゃないよ?和登の前ではしたないって事なんだけど?」



「いえいえ、和登様は私の裸体に釘付けになっておりましたし、もっとしっかり見たいのではないでしょうか?メイドとして、これほど求められるという事は、大変喜ばしい事なのですよ」



「メイドってそう言う事は含まれていないんじゃないかな?」



「そうだとしても、和登様が相手ならば個人的には事情が違って来る、と言う話なのですよ」



「へぇ…そう言う事と理解しても良いのかな?」



「はい、問題ありません。私としても、自分にこのような感情があったことに驚いている所ではありますが」



 二人で何の話をしているのか不明だが、俺はその間に身動き一つ出来ませんでした。心なしか、腹痛と頭痛が襲ってきている気がする…気のせい?それくらい、居心地が悪いって事ですよ!?助けて!!



「はぁ…和登ってモテないと思っていたけど、また一人増えた…異世界だと勝手が違うのかもね」



「和登様は、良くも悪くも裏表がない方ですので、少なくとも私にとってはそれがプラスに働いたようです」



「そっか…私もそこだから何とも言えないかな…とにかく、今回は私の乱入があったんだし、引いてくれても良いよね?和登も、正気に戻っているみたいだからどちらにしろ無理でしょ?」



「それは分かっているのですが、ここまでして何もなしと言うのはどうにも。ただでさえ、一週間と言う約束を伸ばされてしまって思う所がある身ですので」



 そう!俺は、一週間と言うあれなフィーナとの約束を延長して貰ったのだ!頑張った!頑張って…反故にしようとしたのが見透かされてしまって、謝りに謝って伸ばして貰ったのだ!!情けない?仕方ないでしょう!?それが限界だったんです!!本当に頑張ったんですよ!?



「和登…約束って何なのかな?」



「え!?いや…その…えっとですね!?」



 暗闇から一度は救われたと思った瞬間に、崖っぷちに連れて来られた心境です!!もう、何を言っても突き付けられた拳銃の引き金を引かれるんじゃないかってくらい追い詰められました!?自業自得?そんな事言わずに助けて!?



「それは、二人だけの秘密ですよ?和登様」



 唇に人差し指を当てる秘密ですよ?ポーズをしながら俺にそう宣言したフィーナ。無意識に胸に視線が行ってしまう俺。いや、最低なのは分かってるんだけどな?現実逃避させてくれても…



「和登?何処見てるのかな?」



「なななな、何も見てまへん!?」



 心臓止まるかと思った!?一瞬、誰の声か分からないくらい冷たい声でしたよ!?俺が悪い?そうです!その通りです!!それでも助けて下さい!?



「風香様、和登様もどうやら私をじっくり鑑賞したいようですし、少しの間二人にさせて頂いても宜しいでしょうか?」



「良くないと思うな、そう言うのは。お互いの気持ちが大事だもんね。和登もそう思うよね?」



「ハイ、ソウオモイマス」



 恐怖の余り自動的にそう言う言葉が出た。人間、生存本能だけで言葉を発せるという事を知りました。



「風香様、無理やりに同意を得られるのはどうかと思いますよ?和登様、本当は二人きりになってじっくり見たいんですよね?」



 そう言って、片手で俺を自分の方に向けさせ、もう片方の手で布団を少しずつずらしていくフィーナ。俺は、全てを忘れて少しずつあらわになって行く白い肌に釘付けになってしまった。ハッと!すぐに我に返った時にはすでに遅かった…



「和登?」



「生まれてきてごめんなさい!!?」



 俺は、恐怖の余り生まれてきたこと自体を謝ってしまった。生きた心地がしない恐怖に捕らわれた!何やら走馬灯が…友達との何気ない会話すら幸せだったのかもしれない。父さん、母さん、先立つ不孝をお許しください…



「君たちは、朝から何をやっているんだい?」



 最早これまでと思われた矢先、思い掛けない救世主が現れた!俺は恥も何もかもを捨て去って、救世主の月姫にすがりついた。



「月姫ぇえ!!怖かった!怖かったよぉ!!来てくれてありがとぉぉおおお!!!」



「ちょっと!?これでも、僕は女!?・・・はぁ、二人とも和登をここまで追い詰めて満足したかい?」



「「うっ!?」」



「その…二人の姿を見たらかっとなっちゃって…やり過ぎたかも…ごめんね、和登」



「いえ、私も邪魔されたのを不快に思ってしまい、大人気ない事を…すみません、和登様」



「いや、全部スケベでダメダメな俺のせいです、ごめんなさい。これからは地を這って生きていきます…」



「わ、和登?そこまで言ってないよ?」



「和登様、お気を確かに…」



「いえ、俺が悪いんです。俺のせいで二人が仲悪くなるなんて…俺、地面と結婚します。地を這って迷惑をかけないように生きていきます」



 俺みたいな蛆虫はそれがお似合いだろ?分かってる、これからは頑張って這って行くさ…



「重症だね、これは。二人とも、やるべきことはわかるよね?和登は僕が預かるから、二人とも反省するようにね?」



 そう言って、月姫は俺を抱えて部屋から出た。その後、俺が月姫に説得されて人間に戻ることが出来たのは、たっぷり一時間もかかったらしい。余り思い出せないのは幸いなのだろうか?



 因みに、俺たちが出て行った後、風香とフィーナの二人がどんな会話をしたかは分からないが、次に会った時はいつも通りの二人になっていた。








「今日こそは決着を付けようぜ!おっさん!!」



「やる気があるのは良い事だが、そろそろ名前くらいは憶えてくれないもんかね?」



「行くぞぉ!筋肉ダルマぁ!!」



「もういい!!いつも通りに返り討ちにしてやらぁ!!!」



 現在、俺は宿敵筋肉ダルマと訓練と言う名の決闘をしている。何故こうなったか?どうやら、俺が一時期ある意味再起不能寸前まで追い詰められたことを月姫が考慮してくれて、予定を全部明日に回して今日は訓練時間としてくれたようだ。



 俺は、月姫の事を誤解していたのかもしれない。彼女は彼女なりに、俺たち全ての事をちゃんと考えてくれていたようだ。嫌味を言ったりするのも、彼女なりに俺たちを鼓舞してくれているのだろう。そう考えると、俺はまだまだお子様だって事だな!そっちも成長していかなければなるまい!!



 俺は、筋肉ダルマと激しい打ち合いをしつつ、これからの事を真剣に考えていたのだが…



「和登!ファイトだよ!!」



「和登!相手をよく見るのよ!」



「和登様、勝負は非常なものです。急所を狙うのです!」



「急所を狙えは、応援としてどうなのかな?」



「何を言うのです?どうせなら、和登様が勝利するところを見たいとは思いませんか?私は思います。なので、これは的確な応援と言えるではないでしょうか?」



「いや…そうなのかな?」



「私に振られても困るわ。それよりも、二人とも応援でまで争うのは止めて欲しいのだけれど?」



「それは大丈夫。さすがに、これ以上和登に迷惑かけたくないもん」



「風香様の仰る通りです。私としましても、朝のあれは猛省するべきと思っておりますので…」



「そうあって欲しいものね…」



「隙あり!!」



「ぐぁ!?汚いぞ!筋肉ダルマ!!」



「がっはっは!女の声援にうつつを抜かしているからそうなるんだ!もっと集中しろ!!」



「わ、わかってらぁ!!くたばれ!筋肉ダルマ!!」



「まだまだ!そんなのでは俺を捕らえられんぞ!!」



「おおおおぉっ!?」



「かぁああああ!?」



 彼女たちの応援のせいで、集中を切らしかけた俺だが、筋肉ダルマの不意打ちで目が覚めた!今日の朝の事で俺は自分の甘さに気が付いたのだ!もっともっと強くならないとダメだ!いざって時がある世界だ!それが目の前で起こった時、俺は彼女たちを守れるくらい強くならないといけないと確信したんだ!!



 は?変なものを食べたのかって?違うから!俺だって、やる時はやるんだよ!!デレデレしてた罰はもう暫く受けたくないので!それが本音か?ち、違うよ!真面目に強くなろうと思ってるだけです!本当ですよ!?



「ふぅん、思ったよりも真面目にやっているようだね」



「和登君、ふぁいと~♪」



「何で二人とも…ううん、彩夢は何となくついて来ただけだろうけど、月姫は何で来たの?まさか…」



「心外な言われ方だね?もちろん、君たちがまたやらかさないか監視に来ただけだよ?」



「う…だ、大丈夫だよ?ねぇ?フィーナ?」



「はい、何も問題ありません」



「・・・和登の言った通り、本当にしれっと言い切るんだね」



「私の特技ですから」



「特技なんだ…」



「何だか不安になるね…古都も、万が一の時はつられないようにね?」



「私にまでとばっちりが…一緒にしないで欲しいわね」



「いや、正直に言うと君も不安なんだけどね…」



「凄く心外なのだけれど?」



「自覚がない所がすでにどうかと思うよ…」



 会話の内容は良く聞こえてこなかったけど、またやれやれって感じのポーズを月姫はしていた。って、また集中が切れているな、いかんいかん!!



「隙あり!!」



「おっと!?」



「ほう、良く受けたな!」



「はっは!そう何度もってぇ!?」



「隙あり第二弾だ!!」



「喋ってる途中に殴りかかるとは紳士の風上にも置けん!成敗してやる!覚悟しろ!筋肉ダルマ!!」



「さっきから口だけ勇者様だな!いい加減、俺を追い詰めるくらいやってくれよ!!」



「ぬぁああ!!」



「ほぃさぁああ!!」



 俺たちの闘いは更なるステージへ上がって行ったのだった!!やってやるぜぇ!!!



「・・・あの二人、とても仲が良さそうだね?」



「うん、そうなんだよ!いつも口では言い合いしているけど、訓練のパートナーみたいになっているし!」



「確かに、私の時も二人で戦っていたわね…」



「なるほど。そこまでお二人の仲がよろしいという事は、夜のパートナーかもしれませんね?」



「なっ!?何言ってるの!?さすがにない…よね?フィーナの身体を食い入るように見ていたし…」



「そ、そうよね。さすがに、男性同士何てあるわけがない…わよね?」



「はぁ、恋する乙女は大変だね?彼の普段の行動を見ていれば分かる事だろうに…」



「夜のパートナー?ダンスでも踊るの?」



「ちょっとした冗談が、ここまで反応があるとは驚きですね」



「和登が言った通り、真顔で冗談を言うんだね…」



「結構強烈なキャラのようね…」



「結局、なんだったの?」



「彩夢には関係のない話だったって事だよ…多分ね」



「私だけ仲間外れはやだよ?」



「それでは、僕たちとしておこうか?」



「月姫君と一緒ならいっか♪」



「相変わらず、僕も君付けなんだね。まあ、今更ではあるけどね」



 そんな話が展開されていたらしいが、俺は宿敵筋肉ダルマとの死闘を繰り広げていて全く聞いていなかった。集中力って素晴らしいね!!








「はぁはぁ…いい加減に倒れろよ!おっさん!!」



「ふぅふぅ…それはこちらのセリフなんだが?最小限に動いているこちらと違って、それだけ無駄に動き回って何でまだ立っていられるんだ、毎回の事ながら…」



「はん!俺は!はぁはぁ…不死身の勇者様だからな!はぁはぁ…これくらいどうってことないんだよ!!」



 筋肉ダルマとの激闘の末、互いに息も絶え絶えだが、今回は俺もいつもよりも真剣に打ち込んでいるためか、未だに決着が着いていなかった。いつもどうなっていたかって?俺の特性上、倒されはしないけど、痛みで転げまわっていたんだよ!悪かったな!!



 今回は、何度も襲い来る痛みに耐え、攻撃を何度も繰り返していたんだが…相変わらず当たりゃしない!!くっそう…技術って中々習得出来ないんですね!!当たり前だろ?そうだよなぁ…



「はぁはぁ…次の一撃で終わらせてやるぜ!!」



「ふぅー、返り討ちだ、小僧」



 俺たちは睨み合い、お互いのタイミングを計る。そして、今だ!と言う自分のタイミングに従って駆け出そうとしたが、視界に入った人物のせいで留まる事となった。



「勇者様!助けて下さい!!」



「ぐふっ!?まさか、お姫様であるステーシィからタックルを貰う事があろうとは…え?助けて?」



 俺は、ステーシィの姿を認めてすぐに剣を収めていた。しかし、まさかタックルを貰う事となるとは…剣を収めていたせいで思いっきり貰っちまったよ!まあ、それは良いんだが…



「そうなんです!勇者様だけが頼り何です!私の友人を…ウェンディを助けて下さい!お願いします!!」



「わ、分かった!分かったから、落ち着いてくれ!!」



 俺は、しがみ付いて助けてと必死に懇願してくるステーシィを宥めた。さすがに、こんな真剣な表情の彼女の感触が素敵だったとか言わない。言ってるって?お約束のツッコミは要りませんよ!?



「どうやら、何かあったようだね?訓練を中止して…とにかく、王と会った方がよさそうだ」



「ああ、その方が良さそうだな…」



 俺は、ステーシィの頭を撫でて落ち着かせた後、彼女と仲間たちを連れ立って王様の待つ部屋へと向かったのだった。








「まずは、謝っておこう。ステーシィが迷惑をかけたようだ、申し訳ない」



「いえ、彼にとっては役得だったと思うので気にすることはないですよ」



 俺が何か言う前に、月姫がそんな事を言ったせいで王様に睨まれてしまった!何て事を言うんだ、君は!?



 現在、大きな応接の間で王様と向かい合って話している所だ。ステーシィは、何故か俺にしがみ付いたまま離れないので、王様の視線が痛い。それなのに、先ほどの発言で更に視線の強度が増した気がする!!



 視線と言えば、風香と古都からの視線も痛い!前もって月姫が諭していてくれたから多少は緩和されているはずなのに…少なくとも、ステーシィの感触がどうとか考える余裕がないくらい睨まれております…



「ステーシィ、和登殿に迷惑になる。こちらに来ないか?」



「いえ、お父様。ここが一番落ち着けるので…」



「そ、そうか?それならばこのまま話そう…」



 そう言って折れた王様だが、何故か俺を射殺しそうな視線を向けて来た。やめて!俺、何も言ってませんよ!?



「遠回りな事を話す猶予もないのも事実だ…端的に話させてもらおう」



「はい、姫様の様子から見てもその方がよろしいかと思われますよ」



 月姫は、相変わらず王様の前でも飄々としているな。俺は、色々と緊張しすぎてもう倒れそうだ!死因は、視線圧死?そんなのあるか知らんが…



「実は、ここから南に大きな砂漠があってな。そこは、多くの魔物がいる。そして、その魔物からの進行を防ぐために、大きな砦を築いているのだが…そこから、緊急の知らせがやって来たのだ」



「緊急ですか?穏やかではありませんね」



「うむ、その通りだ。火急の知らせが良いものの訳がない。察しの通り、悪い知らせでな…実は、其方たちの魔物との戦闘訓練に付き合うはずだった上級ハンターもそこに向かわせていたのだが、つい先ほど来た知らせで砦が窮地に陥っていると…援軍の要請が来たのだ」



「援軍ですか?しかし、この国には後どれほどの戦力があるのでしょうか?」



「痛い所を突かれたな…実は、彼らが最後の上級ハンターでな…」



「つまり、ろくに戦いになれてもいない僕たちに向かえという事ですか?」



「誠に心苦しい事なのだが…そうなる。私としても、まだ経験浅い勇者たちを向かわせるのは問題だとは思うのだが、如何せん他に頼れる者もおらず、万が一砦が落ちれば…」



「僕たちも結局は危険になるという事ですね」



「そう言う事だ」



「ふむ…」



 何やら月姫が熟考し出したようだ。俺?俺は現在硬直状態です。銅像です。お気になさらずに!!存在感を消さないと色々危険なんだ!!折角のこの嬉しい状況も、楽しんだ瞬間に修羅場と化す可能性があるからな!くそぅ!世の中上手くいかないもんだね!!



「他の国に要請を出すのは?」



「もちろん、使いを出したが…勇者を頼れと突っぱねられた。我が国の立場が低いのは知っての通り…ままならぬものだな…」



「想定通りだけど、外れてて欲しかったね」



 うむ、重苦しい雰囲気だ。そして、俺にしがみ付くステーシィの腕に力が入ったのを感じた。ならば、俺がやるべきことは一つ!!



「俺が…俺たちが行きます!!俺は知っての通り、傷一つ負いませんから!全部まとめて相手してやりますよ!!」



「良いのか?」



「和登!?」



「大丈夫だ!みんなの事は俺が絶対に守って見せる!!魔物が多かったら、俺ごとまとめて魔術でやっちゃってくれて構わない!」



「そんな事っ!?」



「他に方法がないんだろ?こうしている間に、砦が落ちてこの城下町に魔物がなだれ込んだらどちらにしろ戦わなければならなくなるんだぞ?それに、そうなったらたくさんの人が危険にさらされるんだ!そんなの放っておけないだろ!!」



「和登君…」



「君は、本当に単純だね…」



「何より!助けを求められているのに、それを無視したら勇者じゃないだろ!!俺は、伸ばされた手を払いのけるような外道にだけはなりたくない!!」



「勇者様…」



「姫、俺が何とかしますから!ご安心ください!!」



「一人じゃまともに魔物を倒せないのに言うね?」



「うぐっ!?」



「まあ、この状況じゃ仕方ないか?分かりました、この話受けさせて頂きます」



「「月姫!?」」



「ただし、こちらの安全が第一です。もし、無理だと判断したらすぐに撤退させて頂きますが、その辺りは問題ないですよね?」



「ああ、自分たちの身を第一に考えて貰って構わない。…無理をさせてすまない」



 そう言って、王様は頭を下げた。王様も王様で色々大変なんだろう。よく見れば、疲れたような表情が隠れて見えた。あれ?そう言えば、王様の名前なんだっけ?お、思い出せねぇ!?いや、聞いたんだよ?聞いたんだけど…忘れました!



「勇者様、いえ、和登様、それに、皆さま、ありがとうございます!!」



「もしかして、その上級ハンターの中に姫の友達が?」



「そうです…上級ハンターのメンバーの中に、ウェンディがいるんです!お願いします!彼女は、私の大事な心を許せる数少ない友人なんです」



 話しているうちになた心配になったんだろう。ステーシィのしがみ付いている腕にまた力が入った。



「私も、娘の友人として知っている。ステーシィにとっては、姫と言う立場を気にせずに接することが出来る大切な友人のようなのだ。このような事を娘と同じような年頃の少年少女に頼むのは非常に心苦しいが、改めて頼みたい。娘の友人を、この国を未来を、どうか助けて欲しい」



 そう言って、もう一度王様は頭を下げた。父としてと言う事で力が入ったのか、きっきよりも長く頭を下げられてしまった。むむ、ここで名前を呼べれば、何かちょっとアレな気がするが…思い出せない!?名前、なまえ…



「お父様…」



「お父さん、俺に任せて下さい!!」



「お義父さん?」



 ハッ!?今、名前名前と考えていた時に、ステーシィがお父様とか言ったからつられてしまった!?非常にまずい事を言ってしまった気がする!?



「えっ!?いやっ!?これはっ!?」



「私を父と呼ぶという事は、ステーシィとまさかそのような事を考えているのではないだろうな?」



 ゴゴゴゴと効果音がつきそうなほど、怒りに震える魔人がそこに居た!?さっきまでの、娘を思う優しい父親に戻って下さい!?



「いや、今のはっ!?」



「嬉しいです、私の事をそのように思って頂けていたなんて…♪」



 言い訳をしようとしたら、抱き着いて来たステーシィに遮られてしまった!?これ、俺の人生終わったんじゃないか!?



「和登…いつのまに姫様に手を出したの?」



「和登…不潔よ」



 うわーい!風香と古都の二人からごみを見るような眼差しを頂きました!!全然嬉しくないけどね!!俺、そんな趣向の持ち主ではないので!!



「これは違うんだよ!?」



「ほぅ、何が違うのだ?まさか、ステーシィを弄んでおいて、捨てるつもりなのか…?」



「ひぃぃぃいい!?だから、違うんですぅ!!?」



「・・・はぁ、これから命懸けの戦いに赴こうって時に、よくこんな騒動を起こせるものだね…」



 月姫のいつものやれやれが視界に入ったが、俺はそれどころではなかった!俺の命が危ないぃ!!!誰か、助けて下さいぃ!!?








 結局、時間がないのもあって、俺が必至に説得したのにも関わらず、砦から帰ってからまた話し合う事になった。これ、砦から帰ってからも命懸けの戦いが続くんじゃないだろうか?冗談だよね?本気じゃないよね?王様ぁ!?



 俺は、砦から戻ってからもまた戦いが待っているかもしれないと言う不安を抱えつつ、砦に向かって仲間たちと出発をしたのだった。



 まさか、ステーシィと結婚とかさせられないですよね?まだ、俺は結婚とか早いと思うんですよ?ねぇ!?誰か、俺に安心を下さい!?

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