第5話 初勝利だぁ!!◇別視点〈金本風香〉◇


 前回のあらすじ!俺こと嬬恋和登は、真の勇者を目指して修行中だ!色々な苦難を乗り越え、これからと言う時に強敵ニーガと出会ってしまった。激闘の末、辛くも捉えられてしまった俺は、握りつぶされる寸前で激痛に喘ぐ。しかし、その時俺の内から溢れんばかりのオーラが!ついに、勇者としての覚醒を果たす!!そして、激闘の行方は!?是非、刮目して俺の活躍を見てくれ!!



 え?前回見た?全然内容が違う?そ、そんなことないですよ?そんなことある?全然活躍もしてなかった?き、キノセイダ!!嘘はいけない?ば、馬鹿者!!ここから見る奇特な人なら誤魔化せるかもしれないだろ!?余計な事は言わないで良いんだよ!夢を見せてやれよ!!え?すぐにばれる?・・・俺はどうなってしまうのか!?その目で確かめてくれ!!


※あらすじとして真面目に見ない様にお願いします。








◇別視点〈金本風香〉◇


 私は今、和登の叫び声を聞いている。すぐにでも彼の元へ駆け付けたいのに、動けない。何故なら



「何で…行かせてくれないの?」



 私は、抱き止めて行かせてくれない古都を睨みつける。こんなことをしている場合じゃないのに。すぐに助けないと、手遅れになってしまうかもしれないのに!



「落ち着きなさい。彼は、怪我をしている様子はないわ。きっと、大丈夫よ」



 その気安い大丈夫と言う言葉に、私の怒りは沸点を超えてしまった。



「何が大丈夫なの!?和登のあの悲痛の叫び声が聞こえないてないの!古都には!!」



 自分でも驚くほどの大声が出た。でも、それでも私は冷静にはなれそうにない。



「聞こえているわ。でも、彼は潰されそうになっていないでしょ?きっと、彼の職業のお陰よ。だから、大丈夫よ」



 聞き分けのない子に言い聞かす様に、優しく諭す様に古都は言った。悪気はないだろう。私は知っている、古都は時に厳しいが心の芯は優しい女の子である事を。でも、今の私に大丈夫と言う言葉は燃料にしかならないのを彼女は知らない。だから、彼女は悪くない、悪いのは私だ。それでも、私は止まれそうにない。



「みんなそう。外見だけ見て、大丈夫、大丈夫って言うの!結局、人は外見で判断するの!!でも、本当に痛いのは心なんだよ!何でみんな分からないの!!」



 私は、最後の言葉は過去の残滓に向かって叫んでいた。分かってる、これは私の感傷だ。古都は知らない。だから、悪くない。それでも、私は止まれない。



「ふ、風香…?」



「どいて」



「だ、だめよ…」



「どけ!!」



 「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げて、私から古都は離れた。今の私は凶悪な顔をしているはずだ。だから、彼女が悲鳴を上げたのは仕方ない事だと思う。古都は、悪くない。でも、止まれない。だから…



「ごめん」



 私は小さくそう謝ってから和登の元へ向かった。いや、向かおうとした。新たに立ちはだかった存在に邪魔されなければ。



「月姫…あなたもなの?」



「不本意だけど、そうなるね」



「どいて!」



 古都と同じように退いてもらおうと鋭く睨みつける。でも、月姫は違った。



「怖いね…でも、僕も伊達や酔狂で君を止めようとしているんじゃない。今の冷静じゃない君を行かせるわけにはいかないな」



 そう言って、私の目を見つめて来た。その真剣な眼差しに、私は悟った。彼女を説得するのは困難だと。それでも、私は止まれない。



「あなたも和登を見捨てる気なの?」



「見捨てるわけじゃない。君が行ったとして、どうにもならないだろう?むしろ、君と言う犠牲者が増えるだけの可能性が高い」



「そうならないかもしれない。私が行けば、和登が助かる可能性だってあるはず!!」



 私は、月姫を睨みつける。通じないと分かっていても、そうするしかない。



「卑怯な言い方かもしれないが、君が和登のために動いた事で何かあれば、彼に重荷を背負わせることになるよ?風香も分かっているだろう?和登は、私たちを逃がすために動いたって事は?まあ、お調子者であるのは事実だけど」



「分かっているからこそ、助けたいって思うんだよ!私は別に死にたいわけじゃない!だけど、このまま彼を見捨てるなんて嫌!絶対に嫌!!」



 私は、私を否定出来ない。だから、止まれない。これは、私の唯一のルールだから。これを破ってしまったら…



「やっぱりダメだ!君は、一応弓を貰ったけど、それを完全に使いこなせはしないだろう?僕たちじゃ、あの巨大な鬼を倒す事何て出来はしないんだ!」



「やって見ないと分からないでしょ!!」



 私は、彼女の気が一瞬逸れた隙をついて、脇を走り抜けた。案外何とななる物なんだね。すぐに追って来ようとする彼女に、私は警告を放つ。



「分かっていると思うけど、今は和登に全部の魔物が何故か集中しているけど理由は不明でしょ!だから、私があれを攻撃することで魔物がどう動くか分からない!みんなは遠くへ逃げて!!」



 そう叫びながら、全力で和登の元へと走る。段々と近付くにつれ、鬼がとてつもなく大きい事が分かって来る。だけど、私は逃げない。逃げられない!!



「良い的だよ!!」



 私は素早く弓を構える。理由は分からないけど、完璧に弓を扱う事が出来るみたい。まるで、長年使っていたかのように…



 流れるような動作で、私は矢をつがえ、鬼に向かって矢を放った!!



「こちらに興味も示さないの!?」



 矢は見事に命中した!しかし、鬼は意にも介さず、和登を締め上げ続けている。これじゃ、何も意味がない!!



「無視、するなぁ!!」



 私は、矢が無くなるまで放つことを決め、次々と構えては撃ち出す!!


 だけど、矢は当たっても傷すらつけられなかった。弓はそれなりの物らしいけど、矢は初心者用の物だと言っていたので、そのせいかもしれない。あの鬼は、どう見ても新人が相手取る魔物ではないだろうから。



 それでも、諦められずに撃ち続け、気が付けば最後の矢だった。私は、その事に一瞬気を取られてしまい、最後の矢を外してしまった。そして、運の悪い事にそれが近くに居た緑の魔物の腕に命中した。



「うがぁぁあ!!?」



 可笑しな雄たけびを上げ、魔物がこちらを見た。まずい!もう矢がないのに!!



 どうやら、緑の魔物には矢が効いたらしく、腕から見た目と同じ緑の血が流れていた。そして、私に敵意の目を向け走って来る。



「こ、来ないで!?」



 情けない話だけど、敵意を持って走って来る魔物と目が合った瞬間、身がすくんでしりもちをついてしまった。こんな調子で、鬼を何とか出来ると思っていた自分がとても滑稽だった。



 どんなに自分を卑下したところで、状況は変わらない。私は、魔物が迫って来るのを恐怖で固まって見ている事しか出来なかった。



 忠告を聞かなかった結果がこれじゃ、救いがないよね。私は、情けなさで涙が出た。そして、魔物があと数歩と言う距離まで迫り、自分の死を実感した時、彼の咆哮が聞こえた。



「がぁぁあああ!?」



 それは、一見先ほどまでと同じで痛みで喘ぐ悲鳴のようだったけど、違うのは直ぐに分かった。何故なら…



「魔物が…和登の方に…」



 彼が叫んだ途端、私の目の前まで迫っていた魔物が、急に進路を変えた。もちろん、目指したのは和登のいるところだ。もう、私には興味すらないように見えた。



「はは…情けなさすぎるよ。助けようとした相手に助けられるなんて…」



 恐怖から解放された安堵や情けなさなどの様々な感情に襲われ、私は尻もちをついたまま涙を流していた。



「風香!大丈夫か!?」



 呼ばれて振り向くと、近くに月姫が来ていた。違う、他の二人もこちらに近付いて来ていたみたいだ。



「逃げろって言ったのに」



「今の君に言われてもね?」



「…慰めの言葉もなし?」



「慰めて欲しいのかい?」



 月姫の言葉に、私は自虐的に笑う事で返した。正直な所、どうして良いか分からない。



「ほら、手を貸すから立とう。ここから離れるよ」



「・・・結局、和登を助けないんだね」



「違うよ、古都が使えそうな最大魔術を使うって言うからね。巻き添えで死んだら元も子もないだろう?」



「魔術?・・・古都?協力してくれるの?」



「さっきはごめんね?驚いちゃったけど、風香は風香だから、私…」



「その話は後にしよう。みんな、和登を助けたいって気持ちは同じだろう?」



 私と古都は、同時に頷いた。少し遅れて、慌てて彩夢も頷いた。



「じゃあ、行くよ」



 そう言って、私は月姫に引っ張られ立たされた。そこからは自分で歩けという事らしく、先にスタスタと歩き出した。やっぱり、無理やり突破したことを少し怒っているのかもね?



 私は、苦笑しつつも古都と並んで歩き出した。やっぱり、彩夢は少し遅れて付いて来た。







「これくらい離れれば良いだろう?古都、お願いできるかな?」



「ええ…ただ、私も使えるだろうって感覚で何となく分かるだけで、使ったことはないからどれくらいの威力かも分からないのよ」



「それは仕方ないよ。彼は頑丈みたいだし…多少巻き添えになっても大丈夫のはずさ」



 私はむすっとして月姫を見る。中々良い性格をしている。意趣返しに、わざと私が反応した大丈夫と言う言葉を使うなんてね。



 私が、含みのある笑顔を月姫に向けると、彼女も笑顔で返して来た。全く、私の周りは知らない間に強敵だらけになっていたのかもね。



「それにしても、古都はいつの間に魔術を覚えたの?」



「ええと、実は昨日の夜に魔術士の方に簡単な魔術だけを教えてもらおうと思ったのよ。でも、その人が魔術に関してはすっごく饒舌になる人だったみたいでね…」



「あ、分かったよ。察したから…詳しい話は後で聞くね?」



「ええ、じゃあ少し集中させて貰うわね」



 そう言って、古都は深呼吸をした後、目を閉じた。



「炎よ、我が前に現れ…」



 そう古都が言うと、古都の目の前に揺らめく炎が姿を現した。私は、簡単に炎を生み出した古都に少し驚いたけど、集中すると言う彼女の意見を汲んで何も言わなかった。



「凄い、古都ちゃん」



「しっ、静かにね?」



「う、うん、分かった」



 月姫が人差し指で静かにジェスチャーをしながら静かにと言うと、彩夢は返事をしてから自分の口を両手で塞いだ。そこまでしなくても良いと思ったけど、余計な事を言って古都の集中を乱す訳にはいかないので黙って古都に視線を戻した。



「その焔の勢いを業火へと変え」



 古都が言葉を発するたびに炎が大きくなって行く。私は、思わず後ずさりしてしまった。爆発しないよね?



「業火から獄炎と進化し」



 まだ大きくなるの!?・・・威力ってどれくらいあるのか分からないって言ったよね?余りに凄いと、和登を巻き込んでしまうんじゃ…



 私の心配を余所に、古都の詠唱のような言葉は続く。



「新たな炎星へと昇華せよ!!」



「なっ!?」



 私は、思わず声を上げてしまった。何故なら、私たちは古都からそれなりに距離を離れているのに、ここまで熱気が飛んで来たからだ。そして、古都の頭上には数メートルはあろう惑星の様な真ん丸の炎が揺らめいていた。でも!?



「古都!さすがにそんな大きなのは!?」



 しかし、私の叫びは遅かったようで



「フレイムノヴァ!!!」



 目を見開いたと同時上げた古都のその叫び声と共に、巨大な炎は和登の方へと放たれてしまった!?



「古都!?あれはさすがに大き過ぎ」



 私は、最後まで言葉を発せられなかった。放たれた小惑星のような炎は、思った以上に早く移動し、鬼どころか、辺りを白く染め上げた!



「熱っ!?」



 思わず、熱くて声を上げてしまった。他のみんなもそれぞれ声を上げていた。そして、光のように広がった白一色の景色が晴れると…



「和登…」



 私は、絶望の声を上げてしまった。だって、景色が一変してしまっていたから。余りの熱量だったのか、古都の放った魔術の中心地の近くは地面がガラスのようになっていた。恐らく、土の中にあった成分が溶けたのだと思う。



 それくらいの熱量だ。和登が無事とは…



「あっちぃいいいいいい!!!!??」



 その叫び声とともに、何かが…いえ、和登がこちらに走って来た!?恐らく、あちらの方はまだ熱がこもっていてとても熱いのだと思う。だから、こっちに走って…何て事は問題じゃない!和登!生きてる!!



「和登!!」



 私は、思わず和登に抱き着いてしまった。抱き着いてしまった後、私は冷静になり、和登にとっての私に戻ることにした。



「ええと…何がどうなっているんだ?」



「バカ!無理して!!下手したら、和登は正気を失っていたかもしれないんだよ!!」



 和登の気が抜けた言葉に、思わず声を荒げてしまった。ダメだよ私、冷静に、冷静に…



「へ?えっと…あ!?そうだ、俺、ニーガに握りつぶされそうになって…いや、潰れてはいないんだけど…痛みで意識がほとんどなかったんだよな…でも、気を失う事が出来なくて…」



「そうだよ!下手したら、本当に廃人になっていたんだからね!」



 和登が未だに惚けているので、私は冷静になれていなかった。もう!何で私ばかりが気を揉まなければいけないの!!



「えっと…ごめん」



 いきなりシュンとして反省しだした和登を見て、さすがに私も冷静になれた。うん、和登は悪くはない…とは言えないけど、私たちのためでもあったから言い過ぎたらダメだよね。それに…



「その…本当に大丈夫なんだよね?」



「ええと…」



 パタパタと全身を触り出す和登。やっていることは分かるんだけど、触らなくても分かる物じゃないのかな?行動の意図は分かるんだけどね?何かね…



「全身問題ないであります、隊長!!」



 ビシッと敬礼してくる和登。こんな時だけど、もしかして…



「もしかして、こんな時なのに、隊長と体調をかけてふざけたりしてないよね?」



 私は、ジト目で和登を睨む。場を和まそうとしているんだろうけど、さっきまでの自分の状況を絶対に分かってないよね?あんなに苦しそうだったのに…本当に心配していたのに…



「いやその!ほ、ほら!ちょっと場を和まそうとしてですな!?」



 あたふたと慌てだす和登。その様子を見て、もう大丈夫なんだと思えた矢先、安心したためかまた涙が流れてきてしまった。私って、こんなに涙脆かったっけ?



 泣き出した私を見て、和登は自分のせいだと思って更にあたふたし出した。でも、勘違いしてはいるけど、和登のせいではあるので私は何も言わずに和登に反省してもらう事にした。



 しばらく、和登が言い訳や謝罪をしていたけど、それを遮る声が背後から聞こえて来た。



「本当に反省しなよ、和登。風香が一番心配していたんだからね?僕たち何かとは比べ物にならないくらいね?」



「そんなにか!?その、マジで茶化すような冗談言ってごめんな…反省してます」



 全身を使ってショボーンとしている和登を見て、笑いそうになるのと同時に、流石に許してあげようと思い、言葉を発することにした。



「許してあげても良いけど、約束して?もう、無茶はしないって」



 強い意志と共に、彼の目を見て私はそう告げた。私は、この世界では誰も失いたくない。折角、新しい場所へと来ることが出来たのだから…



「えっと・・・分かった、約束する」



「・・・嘘をつくならせめて相手に悟られない様にやって欲しいな」



 思わず、そんな言葉が口から出てしまった。純粋な風香なら指摘しない方が良かったのだろうけど、彼が余りにも真っ直ぐに嘘をついたからつい口から本音が出てしまった。



「いや!その…ほ、本当だって!!」



 再び慌てふためく和登が可笑しくなって噴き出してしまった。キョトンとする彼を見て、本当に良かったと思った。こんなくだらない掛け合いすら、私は凄く必要としているのだから…



「じゃあ、私たちがピンチになっても無茶しないんだよね?」



 私は、少し彼の事を愛おしく思えてしまった事が気恥ずかしくなって、つい意地悪な質問をしてしまった。答えは分かっているのに



「ごめんな、それは約束出来ない。この職業とやらに意味があるなら、俺はみんなの盾になる事にためらいなんて持たない」



 私は、少し目を見開いてしまっただろう。答えはほぼ想像通りだったけど、それでも真っ直ぐにこちらを見つめながら答える彼が、とても眩しく見えた。それと同時に、先ほどとは別の意味で恥ずかしくなってしまって、また軽口をたたいてしまった。



「残念賞、70点!そこは、みんなじゃなくて風香って言ってくれれば100点で彼氏になれたのに、残念だったね?」



 私は、両手を後ろで組み首を傾げながら下から笑顔で彼を覗き込んだ。我ながら、内心ドキドキしているのを上手く隠せていると思う。彼と居ると、純粋だったころの自分が時々顔を出すみたいで、ボロを出してしまいそうになる。



「まじっすか!?やり直します!!風香のために!風香を守るためだったら、俺はこの身を犠牲にしてでも構わない!いや、風香を絶対に守り通して見せる!!」



 元の主旨を忘れているようなやり直し発言。それでも、そうやって名前を出して守るとか言われると少しだけときめいてしまう自分がいた。でも、それを出すわけにはいかない。



「ぶっぶー!言い直しは減点70点です!合計0点になりました!」



「0点…だと!?」



 がっくり膝をつく和登。本当に表現がオーバーで面白いよね。どうしようかなと悩んでいると、彼が動いた。



「もう一度チャンスを!」



 ちょっと必死過ぎだよ!?と言うのが正解かも知れないが、私は両肩を掴まれて硬直してしまった。近いよ!和登!!そして、自分が思っている以上に流されても良いんじゃないか?と思っていることに気が付いて焦る。仕方なく、助けを求めて月姫を見ると理解したようで頷いて見せた。



「和登、私たちの前で風香に襲い掛かる何て反省していないんじゃないか?」



「へ?襲い掛かるって…わ、悪い!!そう言う意味じゃなかったんだ!?」



 指摘され、自分がしていることに気が付いた和登は、またワタワタと慌てだした。必至に言い訳をしている和登に、また噴き出しそうになったけど我慢した。



 プイッとむくれてそっぽを向いた後、和登の様子をそっと伺うとショックを受けた表情で固まっていた。予想通り過ぎて、また噴き出しそうになってしまった。



「あ~あ、風香が可哀そうだね。あんなに必死に君を助けようとしたのに、その君にこんな風に襲われるなんて…大丈夫かい?」



 そう言って、私を抱き締めて来る月姫。本当に見た目王子な彼女は、その見た目とは違って中身は真っ黒だったようだね。また大丈夫と言う言葉をわざと使いながらも、私の演技に付き合って来るんだから。今後も、彼女とは上手く付き合わないといけないみたいだね。



 私は、彼女に付き合って抱きしめ返しながら見上げると、にっこりと笑っていた。安心させるような笑顔だけど、その奥から覗く真っ黒い部分が透けて見え、ため息が出そうになった。



「申し訳ございませんでした!!!」



 流石、和登。私の意表をついて来る確率が高い。まさか、反省を示すためとは言え、いきなり土下座してしかも、地面に完全に額を付けて来るなんて思わなかった。



 これには、月姫も驚いたらしく、唖然とした表情をしていた。彼女のこんな表情は貴重だろうけど、構っている場合じゃない。流石に、こんなことまでされては許してあげないわけにはいかない。元々怒っていないんだけどね。



「仕方ないなぁ、和登は。そこまでされたら、許してあげるしかないよね」



「おお!?許して頂けますか!?」



 ガバッと勢いよく顔を上げて嬉しそうにする和登。本当に、コロコロ表情が変わるよね。



「その代わり、今度何か奢ってね?」



「もちろんです!やったぁ!!」



 私の奢ってねと言う言葉を聞いて、更に嬉しそうにする和登。彼の思考が読めてしまった。きっと、私に奢る=二人きりで食事と言う図が彼の中で出来ているんだと思う。本当なら、ここでもちろんみんなとだよ?と落とすところだけど…



 心底嬉しそうにしている彼を見ていたら、それも悪くないなぁと思ってしまい、黙っていることにした。



「二人っきりで行くつもりかい?」



 こそっとつげで来る月姫を、笑顔で見つめ返す。彼女は、肩をすくめてやれやれと言う仕草をした。王子然とした彼女は、実に様にはなっているけど、本性を知った今となっては苛立ちの方が大きかった。本当に良い性格をしているよね。



「ところで、本当に助けてくれた古都にお礼を言うのを忘れていないかな?」



 月姫のその言葉にハッとした表情をする和登。



「そう言えば、俺を助けてくれたのは…魔法だよな?あれって?あ、魔術だったっけか?」



 そう言いながら、未だに灼熱の地獄と化している魔術の中心部を指さす和登。未だにあんな状態何て…本当に、どれくらいの熱量があったのかな?恐ろしくなってくる…



「そうだよ。それを行ったのはもちろん、魔術士の古都って訳だよ」



「そうか!ありがとうな、古都さん!!」



 和登の言葉に、びくっと身体を震わせる古都。あれ?もしかして、あの反応って…



「ご、ごめんなさい!!」



 そう言って、和登に頭を下げる古都。やっぱり…



「…へ?」



「わ、私!あんなに凄い事になる何て知らなかったの!だから、わざとじゃなくて!!」



 古都が珍しくワタワタしていた。やっぱり、そう言う事だよね。私も、あの光景を見た直後は凄く何て言葉が軽く聞こえるほど驚いたからね。それを成した本人なら、もっと驚いていても当然だよね。



「本当にごめんなさい!!」



 再び頭を下げる古都を見て、和登はやっと我に返ったみたい。



「いやいやいやいや!!謝る必要ないですから!!俺が悪かったんだよ!!むしろ助かりました!!痛みで正気を失いかけてた俺に活が入る熱さだった!!目が覚めたよ!ありがとうな!!」



 そう言って、彼女の手を取り上下させている和登。彼なりに、気にするなって事を伝えたいだけだとは思うけど…ちょっと近付き過ぎじゃない?確かに、この4人の中では純粋な古都が一番和登には相応しいとは思うけど…う、これって完全に嫉妬だよね?参っちゃうね…



「古都!!ごめんね!!さっきは、酷い事を言っちゃって…私、ちょっとおかしくなってたみたい!本当に、ごめんね!!」



 私は、二人が意識してしまう前に割り込むことにした。本当なら、和登に抱き着いてアピールするのが一番なんだろうけど…さすがに、まだそれはまずいと思う。なので、古都に謝るのを口実に抱き着くことにした。



「風香!?その…風香も怒ってない?」



「全然!私が悪かったの!だから、謝らなくて良いからね!その…古都こそ、本当に怒ってない…?」



「怒ってないよ!ちょっと驚いただけだよ…じゃあ、仲直りで良いのかしらね?」



「うん!古都、大好き!!」



 改めて、古都に抱き着くと彼女は照れながらも頭を撫でてくれた。少し利用したような感じになってしまった事に罪悪感が芽生えたけど、古都が大好きなのは本心なので、許してくれるよね?



「へ?二人は喧嘩したのか?」



「君のせいでね?君を助けようとする風香を、古都が止めたんだ。危ないから言っちゃダメだってね?まあ、結局は協力して助けたんだけどね」



 協力と言うけど、ほとんど古都が一人で助けたようなものだよね。それはともかく、その言葉を聞いた和登は、再び土下座をし出してびっくりした!何でも、自分のせいで美少女に喧嘩をさせるなんて罪深い!!とか言っていたけど…さすがに良く分からなかったよ。



 それから、しばらくして遠くの方に慌ててこちらに向かって来るハンターの人たちが見えた。きっと、あのナンパ野郎たちがハンター組合に駆けこんで呼んだハンターたちだと思う。



 流石に、召喚した勇者を失うわけにはいかないのか、かなりの数のハンターがこちらに向かっていた。これで大丈夫だろうと、私はやっと心から安堵出来た。でも、その時慌てて和登が何かを言い出した。



「ハッ!?初勝利の雄たけびを上げていない!?」



「え?初勝利の雄たけび…?」



 和登が何を言っているか分からななかったので、聞き返したのだけど、止まる気はなかったようで



「風香!俺に続け!!俺たちの、初勝利だぁぁぁあああ!!!」



 ぽかんとなりそうになったけど、本来の私を思い出して慌てて続いた。



「初勝利だぁ!!」



「わーい!!」



 私が、和登に付き合って雄たけびを上げると、ノリで彩夢が喜びの声を上げた。そして、驚いたことに古都が小さくガッツポーズをして乗っていた。まあ、月姫はいつものやれやれをしていたけどね。



 そんな感じで、私たちの初の闘いは終わったわけだけど、明日からが大変だね。魔物との戦いに関して、甘く見過ぎていたのが分かったし、色々と心の整理もしないといけないし…ね。



 私は、ハンターたちと合流する前に、お疲れ様の意味を込めた笑顔を和登に向けたのだった。

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