第4話


僕は――カオナシ、そう呼ばれている。

あれから3年間、マスクをしてこの世界を過ごしている。

それはこの焼けただれた顔をみんなに見せたくないためでもあるし、人間は今の今まで僕しかいないからだ。

もこもこという毛皮で覆われた人たち――がこの世界の一般的住人だった。

「ねーカオナシー? 明日は晴れるかなー?」

晴れるだろうに決まっている。『上』は天気が変わらない。くじらを取るスポットまでの炎天下を楽しめる。

うさぎのファーリィ・コメットがくじらの肉の串焼きを食べながらもがもがしてる。

うさぎのくせにと思うのだが、これが彼女の好物だ。

なんで好きなんだと説いたらこれしか食べるものがないからと答えられたが、アフリカの少年がこれを飲むしかないと泥水をすすっている写真のようなイヤな顔はしない。

僕は二人で先週行った『狩り』についての事務仕事がやっと終わったので伸びをするついでにファーリィの噛みしめる串焼きを奪ってもがもがする。

ファーリィが信じられないーと行った顔で、

「もう一本ちゃんと買ってきてたのに…、」……食べざかりで、ごめんね。

「あたしはすごいんだ! ……明日のデートは晴れだね」

手提げ袋からもう一本串焼きを出して咀嚼する。


この世界は砂にまみれた世界で、人々は砂まみれになるのを恐れて地下に潜った。

この『新宿』の上も砂まみれ。地下数キロまで掘り抜かれた遺跡を改築して居住している。

上から僕たちがいる居住区、一個下の工場区からの整理物品を加工する製造区、外の世界からの贈り物を加工したり贈り物を受け取りに行くための道具を作る工業区、公共施設がある公共区と大まかに分けられている。

これでもまだ全部の階層が使われているのではなく、ほんの表皮に僕たちが帰省しているに過ぎない。

最下層に何があるか、僕は知らない。

この地下都市に新宿と名付けたのも僕だ。初めてくじらに出会った僕を助けた彼女はファーリィだ。

「僕が助けたのだが」と毎回言うのだがそんなはずはないときっぱり言われてしまう。まあ確かに助けはられた。助けられた僕は彼女のキャラバンに同乗し3ヶ月砂漠を横断した。

そこで見つけた都市がここ。巨大で崩壊すれすれのビルがたくさん生えていたので新宿だ。住むのは地下であるが。


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