episode・13 瑛太の独り言
どうも! 大山瑛太です。
今日は約束を果たす為に大学が引けてから雅と待ち合わせて、俺がカテキョのバイトをしている斡旋事務所の前にいます。
隣にいる雅はというと、目をキラッキラさせてワクワクを隠せないようですね。まるでこの何の変哲もない事務所が入っているビルが、雅にはとびっきりのアトラクションに見えているのかもしれません。
さて先日のコンパの成果なのですが、2次会会場に場を移した途端、俺はモテモテでした!でも会話の内容の殆どが雅への質問ばかりだったのは何故なのでしょか……。
男は顔じゃなくて中身だと思っている世の男子達、手を挙げろい!!
一応2次会の出来事を雅に伝えたけど「ふ~ん」とまったく興味なし!
まぁ奴らしいといえばらしいんですけどね。
雅とは高校の時、受験の為に通っていたゼミが同じで知り合いました。
当時の雅は今より刺々しい雰囲気で、話しかけんなオーラが凄かったんですよ。
でもね、俺は諸事情で参加出来なかったんだけど、高2の時に参加した夏期講習として別メニューを行っている合宿があったんだけど、その合宿に参加した時に色々とあったみたいで、随分と雰囲気が柔らかくなって帰って来たんです。
とはいえ、一般的にはまだまだ暗い部類に入るんだけど、いい傾向に向かっていると感じた俺は、いつもよりガンガンあいつに話しかけたんです。
今でこそあんな感じでバカ話なんて出来てるけど、こんな感じの仲になるまでは大変だったんですよ。
え?何でそこまでして仲良くなりたかったのかって?
それはですねぇ……ハッキリ言って俺は立派な陽キャでいつも沢山の友達に囲まれてました。
でもですね……そんな俺だったんだけど、正直周りに神経をすり減らす事に疲れていたんですよね。
そんな時に雅をゼミで見かけた時、不思議な感覚があったんですよ。
こいつは本当の俺を知っている……理由なんてない。でも、あいつの目を見ていたら、そう思わされたんですよ。
それから雅に興味が湧いた俺は、迷惑そうな顔をされてもお構いなしに近付こうと頑張りましたよ。
本当に変な奴だとは今でも思うんだけど、親しくなるにつれて雅の事が分かってきたんです。
芯が強そうで実は脆い。女に興味がなく金を稼ぐ事に繋がる事しかしないとか言ってるけど、実は凄く優しくて繊細な奴なんですよ!
そう言うと本人は絶対に否定しかしないんだろうけど。
それと凄く家族想いだったりするんですよね。
家族の為になるのなら、どんな事でも体を張る気でいるって話してくれた事があるんです。
バイト、バイトの生活だって、親父さんに金を返す為だって言ってました。
散々迷惑をかけてきたケジメだとか言ってたけど、親としては甘えて欲しいって思ってるんじゃないかって思うんですけどね。
そんな奴なのにどうしてか教えてくれないんだけど、母親の事に触れると殺気だった目で睨みつけて「その話だけはするな!」って怒鳴られた事があります。
だからそれ以来、雅の母親の事に触れる事はしなくなったんだけど、顔立ちがめっちゃ整ってるのに隠そうとしている事となにか繋がりがあるんじゃないかって睨んでたりします。
もう俺から詮索するつもりはないけど、いつか話してくれないかなって割と本気で思ってるんですよね。
ねっ!興味そそりませんか?
具体的にピンポイントで説明するのは難しいんだけど、何か引き寄せられるって言うか……あ、変な意味じゃないですよ?俺はノン気ですからね!
軽い性格で、お調子者。それが昔からの周囲の俺に対しての評価です。
別にその評価を否定するつもりはなかったんだけど、雅だけは本当の俺を見抜いているんです。
「瑛太は自分と俺の前を照らせ。俺はお前の背中を支えてるからさ」
昔、受験で潰れそうになって感情が表に出なくなってしまった時、雅が言ってくれた事。
当時の俺には何を言っているのか、正直分からなかったんですが……でも、最近かな。最近になって少しづつ雅が言いたかった事が分かり始めた気がするんですよね。
その意味が分かり始めてくると、雅に言いたい事が出来ました。
何がセミボッチのコミュ障で、金を稼ぐ事しか興味なくて、恋愛とか友情なんて1番無縁な人間だ。
俺はお前ほど、優しさが服着てる人間は知らないっての!
もうすぐだ。もうすぐお前の周りは賑やかになっていくよ。
その為に、この腕時計をわざわざ大学に付けていったんだからな。
あの日、わざと雅の目に止まるように時計をちらつかせたんだ。
お前は俺の作戦通り喰いついてきたよな。
時計の値段を言った時のお前のリアクションは最高だったw
すぐに俺のバイトに興味をもった時点で、俺のミッションは完了してたんだ。まぁこの間のコンパはリハビリみたいなもんだったけど、これからのお前を見るのが、俺は今から楽しみでしょうがないよ。
俺はな、お前の決めている目標額に1日でも早く到達して欲しいんだ。
でも人見知りで臆病なお前に普通に家庭教師を紹介しようとしても、きっと逃げる事は分かってた。
だから、このバイトをすればこんな物が買えてしまうって事を知らしめれば、臆病な性格を押し殺してでもやってみたいって言い出すと思ったから。
このバイトが軌道に乗れば、絶対に早く金が溜まるはずだ。
そうすれば、雅も大学生活を楽しむ事が出来るだろ?
バイトもいいけど、キャンパスライフを満喫しようぜ!
誰かを好きになったりとかさ!いつか金稼ぎ以外の相談とかしてこいよ。
そんなこんなで、俺はそんな日が訪れる事を楽しみにしてるんです。
勿論、絶対に雅にはこんな事話す気なんて、1ミリのありませんけどね。
「うっし! んじゃ行くか! 雅」
「おぉ! よろしく頼むわ!」
今日は雅が前を照らせ。
俺がお前に背中を押すからさ。
(あぁ、俺って何でいい奴なんだろ。
こんないい奴がなんで彼女がいなくて、未だに童貞なんだ?
これは世界の七不思議にあたる案件だろう……)
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