7 / ⅲ - Make known, Make unknown -
「うーん、高校生をターゲットにするならパーカーにネックレス、下はジーンズで髪を上げたりしてカジュアルに、大学生から社会人に向けては綺麗目コーデで、それはあかねちゃんが言ったカットソーにスカーフなんかが似合うと思うな」
あかねは満足気に相槌を打ちながら真紀奈の言葉を聞き、NLCディスプレイを叩きながら彼女の提示したデザイン案をまとめる。
「流石、彼の合法ストーカーになっただけはあるのね」
「ひ、秘書だよっ!」
言い掛かりだと頬を膨らませる真紀奈に対し、あかねはケラケラと悪戯に笑う。
「試しに聞くけど、小郷くんの起床時間は?」
「六時三〇分が基準みたい。今日は三分〇四秒くらい遅かったかな」
「じゃあ小郷くんのお昼ご飯」
「今日は料亭からお弁当を取り寄せたよ。ワイン料理はディナーに多いからあんまり選ばなくて、他にはエスニック料理とかも好きだけど、スパイスの効いた料理は時と場面を選んじゃうから無難な和食にすることが多いって言ってたな」
「小郷くんの夜の事情」
「そ、それは、だ、ダメだよっ! 秘密っ!」
そう言った直後、秘密ということは把握している他ならないと己が失言に赤面するも遅く、あかねは愉悦の笑みを浮かべながらその尻尾を掴んで離さない。
「ふぅーん? つまり毎晩の愛しい時間は他の人に知られたくないと」
「そそ、そうじゃない、けど……んとね、わたしが寝てる間のゆうくんの位置情報とかも調べてるんだけど、たまに第七整備場に行ってる時があるみたい。でもそれだけだよ、そんな……その……お付き合いのお店にも行ってないのは確認してるけど……あうぅ」
生々しい話はしたくないと俯く真紀奈に対し、流石にこれ以上は話を広げるべきではないだろうと引き際を弁え、あかねはすっかり蚊帳の外にしていた有土へ視線を移す。
「お待たせしちゃったわね、小郷くん。それじゃあ今日はカットソーとスキニーパンツでオフィスカジュアルにキメましょ」
そうして、あかねの拘りもあって撮影が終わる頃には空の鈍色も色を増し、街灯が案内する時間となっていた。
撮れ高は十分だと顔を綻ばせる彼女はこのまま夜通し記事を作成するようで、真紀奈はそんなキャリアウーマンの姿を尊敬、そして体調を崩すまいかと心配をしていた。
「いい小郷くん? 体型に合わせてスーツを選んじゃダメよ、スーツに合わせて身体を作るの。一度太りだしたらそのまま雪だるま式になっちゃうからね。一年後、十年後……いえ、半世紀後の採寸も同じ数字になるようスタイルを維持するのも、人の前に出るお神輿としての大切な仕事だからね」
「わかった。良い道化を演じれるパフォーマーになれるように努力するよ」
あかねの去り際に掛けられた執政者に対し神輿という発言は、他人からおんぶにだっこをされるだけの
神輿、あるいは傀儡。
ピエロ、もしくはパフォーマー。
フォローをすれば象徴という言葉にもなろうが、その実態や本質はなんら変わりない。
それは執政局第二席という重役でありながらも、若者を擁立する為に重鎮各人でフォローをし合うと判断を下した先人達の総意であり、それは異例の昇進で重責を負うことになった有土自身にとっても、前途に押し潰されることのない救いの選択肢であった。
「お待たせしてしまい申し訳ございません、添氏さん」
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