1 / ⅱ - 天使の製造元 -
株式会社『アンゲロス』は、言わば一つの巨大な企業国家である。
この企業は全世界で飛び交う軍用機の最大手生産会社であり、それに付随して燃料や爆弾、エンジンや電子機器などの軍需品全般を世界の主要国に輸出している。
そしてその莫大な利益を用いて太平洋に一つの人工島を作り、そこに企業法人の幼稚園から大学校までの教育機関、そして社員とその家族用の住居が建てられている。
高等学校もその一環であり、高校で航空機の整備を中心に学ぶ整備科に籍を置く男子生徒、
「どうした? 浮かない顔して」
鉛色の空から雪が深々と降り積もる一月の中旬。
一貫校とは言えど、高等学部からの卒業を近くに控える三年生の彼等には、多少なりとも何か思い憂うことはあるだろう。
「なんでもない。別に卒業したところで、俺達はこの面子のまま場所を変えるだけだからな。『
戦争が始まってから、既に幾百もの年が経っている。旧世───西暦時代の人類とは違い、生まれてから今まで曇天しか知らない彼等にとって、その言葉はいつしか意味を変えていた。
「……ってか、情報科のお前はここにいていいのかよ。もうすぐ朝礼が始まるぞ」
いいんだよ、と何の解決にもなっていない返事をしながら、彼の隣に座る童顔寄りで美形なやや小柄の男子生徒───ITを専門的に学ぶ情報科の生徒、
「ま、お前の気持ちもわからないことはない。俺らは社会的にも法律的にもエロゲーが買える歳になったっつーのに、まだそっちの卒業は迎えられそうにないからな。何もしないまま高校生活を終わらせられるかって感じだよな。……は? 『愛無し 童貞』には無理だろうって!? 冗談じゃねェ、こちとらメインヒロインから先輩後輩姉妹従姉妹生徒会長図書委員保健委員」
「あっ、」
有土が気付くも遅く、一度火が付いてしまったマシンガントークは止まらない。
「……陸上部バスケ部バレー部テニス部バド部弓道部書道部茶道部吹奏楽部軽音部美術部文芸部放送部園芸部演劇部パソ部帰宅部と、学校内だけでも少女達と毎晩忙しいんだよ!!」
「 “部 ”がゲシュタルト崩壊しそうだな」
「部だったらまだまだあるぞ。法学部経済学部経営学部商学部国際社会学部文学部教育学部医学部歯学部薬学部看護学部保健学部理学部工学部農学部───」
「……医学部とか、地味に凄くね」
それは部活動ではなく大学の学部だという言葉も、そう言っているから女子からも距離的な意味で一線引かれてしまっているのではないかという言葉も伏せた。
勿論、彼が言っていることがあくまで次元が一つ下の世界の話であるのは、想像に
ちなみに余談ではあるが、彼の評価は「黙ってればめっちゃモテる」だそうだ。
「JKJDだけじゃねぇーぞ。俺はJCJSメイドナースゴスロリシスターシチュワーデスウェイトレスエレベーターガール
それにしても、いついかなる時代でも科学技術の最先端が真っ先にそういったものに反映される訳なのだから、誰もが欲望に忠実というか……世の中というものはわからない。
これ以上彼の話を聞いていると埒が明かなそうなので、有土は耳を貸すのをやめて、窓辺にある自分の席から外の景色を眺める。
ひらひらと舞い降る雪の向こうに、天を穿つ巨大な一本槍の如く
「───ツンデレヤンデレ内気天然清楚毒舌腹黒高飛車小悪魔………」
「道定、朝礼まであと三分」
「……ああそうですとも、どうせエロゲーの中での話ですよ。だがそれの何が悪いってんだ、可愛い人を可愛いと言うのは悪いか? 否! 可愛い女の子に対して男性の本能が働くことは悪いことなのか? 無論、断じて否!! ……は、あと三分? んなもん知るかッ!」
「さっさと帰れ」
有土に追い出された道定は渋々と席を立った。
全学部を合わせると学年で一万人にも昇り、学科ごとで棟を違えて設けているこの学校で、二人の学科の棟が隣なのは幸運だろう。
「それにしても、全く」
道定がいつから十八歳未満の購入及びプレイが禁止されている、ノベライズ型の恋愛シミュレーション美少女ゲーム───
あれをどうやって手に入れたのだろうか……考えれば考えるほど泥沼に触れそうな気がしたので、有土はそれ以上考えるのをやめた。
「それじゃ、また放課後『
その言葉を最後に道定は教室から去っていった。
有土は分かっていると返事をする代わりに溜息を一つ吐いて、また窓の外を静かに眺めた。
『
大学教育の過程を飛ばして高等学部卒業後は直接アンゲロス本社へと就職する、教育機関からの早期卒業を認められた学生。
彼等の選考方法は筆記試験の成績、及び実技試験の結果、そして……
「“特記すべき何か”の在る者、か」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます