法学部はいいぞ~法律学科をステマするエッセイ~

牛盛空蔵

法律学科をステマするエッセイ

 大学行くなら法学部!

 特に法律学科!

 法律学科をなにとぞよろしくお願いします!


 本エッセイは、主に高校生に向けて、とにかく法学部法律学科をおすすめするものです。

 その理由は「法学という学問が楽しいから」……ではありません。

 そんなおすすめの仕方は、私なんぞよりずっと法学に熟練した研究者たちにお願いすればいいのです。

 そもそも、どの学問が楽しいかなど、人によって違うとしか言えません。「いいえ、学問の楽しさは順位付けできます」と主張するなら、例えば食べ物、カレーとラーメンとハンバーガーの順位付けすら困難であること、人によって違うことを思い起こしてもらいたのです。

 というより、大半の人は学問などしたくないのでしょう。ごちゃごちゃした理屈を聞かされるのは、念仏を聞くより苦痛なのです。なぜなら念仏はただ聞き流せばいいのに対し、学問の理屈は覚えて使わなければならないからです。

 ちなみに私は数学が苦痛でした。数学の考え方は経済学やオペレーションズ・リサーチ……つまり数量的な戦術研究にも用いられているため、文系分野であってもそれらの部分は苦手意識を感じています。


 というわけで、私はもっと地に足のついた勧め方をしたいと思っています。


 まず法律学科は、多くの大学では、卒業論文を要求されない傾向があります。

 卒業論文を要求されない傾向があります。

 二度言いました。

 もちろんあくまで傾向に過ぎないので、大学によっては卒業論文を課すところもあるでしょう。

 しかしそれでも、こういった傾向は確かにあります。

 ……まだ高校生の方にとっては、こう言われてもピンとこないかもしれません。

 無理もない。卒業論文、というか長大な論文を作ることがどういうことか、身をもって知ってはいないはずだからです。

 説明をしますと、「特定のテーマを取り上げて、40000字ぐらいの筋道が通った論文を書く」ことです。

 他と比較をしましょう。高校生が経験する小論文は、試験場で即時に書く場合、長くても1500字ぐらいで、しかもその程度でさえ2、3時間ぐらいかけるものです。逆にいえば所要時間は数時間で済むとも解せます。

 試験場で行うのではなく、じっくり時間をかけて提出する場合でも、万単位の字数はまずないでしょう。

 1500字と40000字。この数字で、少しは大変さが理解できるかと思います。

 しかも卒論の場合、その40000字が「一定のテーマ」に貫かれていなければなりません。1500字を異なるテーマで26本書くのとも違うのです。

 その40000字が、法律学科では課されない場合が多い。これは大きなことです。

 もちろん、高校生も様々ですから、すでに文章を書くのに慣れている方もいるでしょう。また、卒論は課されないとしても、ゼミ論文というものがある場合もあります。

 ただ、ゼミ論文はあくまでゼミ内でのことですから、入学後からでも回避しうるものです。また、さすがに40000字を全く苦にせずに短期間で仕上げるほどの「論文の適性」がある人はごくまれでしょう。

 とにかく卒論が無いのは大きい。ゼミ論ですら「あっさりサクッと」とまではいかなかった私が言うのですから、間違いありません。


 また、特殊なゼミや講義をとらない限り、法律学科では基本的に外国語の書籍を読みません。

 いや、一般的な英語科目や第二外国語科目は確かにあります。しかし、法律専門の書籍や論文としては、外国語の文献にあたることはまずないでしょう。

 日本の法律は歴史的に英米やフランス、ドイツの影響を確かに受けていますが、それでも法律学科で学ぶのは、基本的に現在の国内法です。外国の文献を読むのは、研究方面の――つまりロースクールを除く院生や本職の研究者のレベルです。ふつうの学部生は開く必要がありません。

 ただでさえ何やら小難しい文献を、外国語で読むのは大変なことです。しかし法律学科では、学部生のレベルにおいては、そこまでやる必要がない。

 逆にいえば、就活で外国語、特に英語を使う場合、自分で鍛錬しないとすごく弱くなるともいえますが、まあそれはご愛嬌。たいてい就活のスキルは講義外で磨くものですから。


 最後に、法学は世間的に「実学」すなわち実用的な学問であるとのイメージを持たれています。つまり「いらないことを学んだ人だな」とは思われにくいです。

 このイメージは、個人的には「ホントかよ?」と疑いたくはなりますが、しかし事実として、「非実用的な学問をしていた」とは世間は見ない傾向があります。

 もっとも、例えば文系の就活には学部学科はほとんど関係ありませんし、法学だからモテモテということも全くありません。

 この利点は、まあ、オマケのようなものです。方向としてプラスには違いありませんが。


 というわけで、ここまで法学部法律学科を勧める理由を説明しました。

 ただ、もし皆さんに「この学問がやりたい」という意思がある場合、それをさえぎる意図はありません。私ごときがその自由な意思決定を妨げてはいけません。

 ……もっとも、この注意書きですら現実的ではないかもしれません。地理的に遠すぎるとか、お金の問題でとか、偏差値が届かないとか、種々の制約で法律学科が選べない人も確実にいます。

 しかしそれでも声を大にして言いたいのです。

 法学部、というか法律学科はいいものだぞ!

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