「体温計」「綺麗」

「体温計」

 

 私の彼氏は、距離感が近い。同じ学科の大学生なんだけど、毎朝顔を合わせる度に、私の手をすぐに取る。

「今日は温かいね」「ちょっと冷えすぎじゃない?」

 彼はいつもそうやって、私の温度を確かめる。

 風邪っぽかったりするとすぐ怒るし。

 そんな彼はもしかしたら、体温計の妖精なのかもしれないな。

(作:月輪あかり)


 大学にサーモグラフィー体温計が導入された。三十七度五分以上だとセンサーが発動し、校内に入ることが出来ない。センサーの前に立つ。正常。そして、ぞっとした。私の後ろから来た先輩。映ったのは青。人間の体温じゃない。内緒にしてね、先輩は私の頬に触れ妖しく笑った。その手には鱗がついていた。

(作:針間有年)


***


「綺麗」

 

 白紙のキャンパスを見つめてる。手元にあるのはいくつもの色。ここから何を作ろうか。

 僕たちはアーティスト。顧客に美しいと思わせる絵を描かなきゃいけない。それは綺麗ならいい訳じゃない。難解だったらいい訳でもない。

 直感性。一目見れば足を止める程の、魅了。

 奇跡をこの世に産み落とすんだ。

(作:月輪あかり)


 綺麗な花には棘がある。よく言ったものだ。私の彼氏はまさにその権化だ。サラサラの髪、クールな流し目、薄い唇。鋭い棘でめった刺しである。それなのに――。

「昨日、可愛いカフェを見つけたんだ!一緒に行きたい!」

 子犬系美形。どれだけ私の性癖を刺せば気が済むのだ。うぐっ。今日も幸せだ。

(作:針間有年)

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