14
静かな湖畔。
眠る彼を、抱き上げて。
草原と湖の見えるハンモックに、やさしく乗せて。ゆっくり。ほんのすこしだけ、揺らす。
彼の、眠った顔。
満足そう。
彼は。
わたしの出した手紙の通りに。最後まで好きな人であり続けて。そして、倒れた。
最後の病院で。
マネージャとしての依頼が終わって、足早に彼が去って行った後。お医者さんから、彼が、子供の頃の記憶を失わないようにしていることを、聞いた。
身体と心の、成長不一致だった。
頑強で丈夫な大人の身体。生きるための、子供の頃の記憶。そのふたつが、ぶつかりあって、不具合を起こす。
彼を追って声をかけようとして。ちょうどその瞬間に。彼は階段から、転げ落ちた。すぐに起き上がって。胸ポケットから、何かを取り出して。彼は倒れた。
彼が胸ポケットから取り出したのは。
わたしが子供の頃に出した、手紙だった。
彼は。
わたしのことを忘れないようにして。
わたしが最後まで好きな自分でいられるように、全力で生きたのだろう。
それが、わたしには、いたいほど分かった。そしてわたしは。彼が桐生景近だと、その手紙を見るまで。気付けなかった。
彼は、眠りについたまま。
起きることは、もう。ないのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます