14

 静かな湖畔。


 眠る彼を、抱き上げて。


 草原と湖の見えるハンモックに、やさしく乗せて。ゆっくり。ほんのすこしだけ、揺らす。


 彼の、眠った顔。


 満足そう。


 彼は。


 わたしの出した手紙の通りに。最後まで好きな人であり続けて。そして、倒れた。


 最後の病院で。


 マネージャとしての依頼が終わって、足早に彼が去って行った後。お医者さんから、彼が、子供の頃の記憶を失わないようにしていることを、聞いた。


 身体と心の、成長不一致だった。


 頑強で丈夫な大人の身体。生きるための、子供の頃の記憶。そのふたつが、ぶつかりあって、不具合を起こす。


 彼を追って声をかけようとして。ちょうどその瞬間に。彼は階段から、転げ落ちた。すぐに起き上がって。胸ポケットから、何かを取り出して。彼は倒れた。


 彼が胸ポケットから取り出したのは。


 わたしが子供の頃に出した、手紙だった。


 彼は。


 わたしのことを忘れないようにして。


 わたしが最後まで好きな自分でいられるように、全力で生きたのだろう。


 それが、わたしには、いたいほど分かった。そしてわたしは。彼が桐生景近だと、その手紙を見るまで。気付けなかった。


 彼は、眠りについたまま。


 起きることは、もう。ないのかもしれない。




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