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湖畔。
草原と湖。
むかし、彼が駆け回って遊んでいた場所を眺めながら。
彼のために。
唄う。
そうすると、彼は。眠りながら、何かを、口ずさむ。
謝っているのだと、気付いた。
あのときも。
ごめんなさいと、よく言っていたっけ。
わたしは。
静かな湖畔であなたと唄う。
あなたのためだけに。
この唄を。
彼も、何かを、口ずさむ。それが謝っている言葉でも。それでも、よかった。あなたと唄えるのなら。それでいい。
そして。
わたしの唄に合わせて口ずさんでいた、彼の、小さな声が。
吹き抜ける風と共に。
消えていった。
ハンモック。
彼の眠ったような顔。
「ごめんね」
涙で、彼の姿が滲む。
涙を拭って。
もう動かない彼の身体に。
寄り添う。
「ありがとう。ごめんね。最期まで。気付いてあげられなくて」
涙だけが。流れ落ちる。
冷静に。
心を落ち着けた。泣き出してしまいそうな喉を、鎮める。
もういちど。
何度でも。
永い眠りについた、彼のために。わたしは。
静かな湖畔で、唄う。あなただけのために。
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