第11話
「じゃあ、移動がてら。話を聞いてあげるわ」
車に乗り。自分が運転する。
「大丈夫でしょ。この国なら」
自分の生まれた国。草原に寄ることは、できていない。もうすぐ、依頼としては最後の病院だった。
「じゃあ、先にわたしの話をするから。それが終わったら、あなたが話をしなさい」
車の後部座席。勝手に話を進めている。
「わたしはね。探してる人がいるのよ。その人のために、歌姫になったの」
探している人。はじめて知った。
「今日行く病院に、むかし少しだけ入院してたの。海外に治療に行く前だけど。昔のわたしは、心の不具合でね」
「へえ」
心の不具合。いまの彼女の状態からは、まったく想像がつかない。
「それで、海外まで行って、なんとか身体を治したわ」
心の不具合なのに、治すのは身体なのか。気になったが、黙っていた。
「身体が治ってね。ひとつだけ、得たものがあったの。この声。身体はめちゃくちゃになっていたけど、唯一、声帯だけは無事で。大人の女性の音域と子供の女性の音域が混じりあった、不思議な声が、出るようになってた」
「それで、歌手を?」
「ええ。とにかく、有名になりたかった」
「全世界の男を虜にするためですか?」
「違うわよ」
運転席を蹴られた。
「見つけてもらうためよ。わたしを」
後部座席。彼女。腕組みをして、足を組んでいる。どうやらもう蹴られる心配はないらしい。
「白馬の王子さまとか、そういう誰かにですか?」
「いいえ。子供の頃に、遊んでくれた人よ。大好きだったのだけど」
不安と焦りが、なぜか、押し寄せてくる。
「すいません。話はそれぐらいにしてください。もうすぐ、病院に着きます。残りは、帰りに」
強引に、話を終わらせて。身体を集中させる。最後の警護。ここで、何かあってはいけない。
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