第9話

 仕事内容は、簡単だった。


 色々な国の医療機関を回って、特定の症状を持つ子供を集め。個室に女と一緒に閉じ込める。


 警護の関係上、個室は窓のあるものにして、そこから彼女を眺めた。子供に向けて、何か口を動かす彼女。唄っているらしいのだろうが、どうにも声は聞き取れなかった。


「さあ、次行くわよ次」


 ひとつところで唄い終わると、彼女はすぐに別な国、別な場所に飛んでいく。一日に何ヵ国も回るのが、普通になっていた。


「すごい体力ですね?」


「まあね。これでも歌姫ディーバだから。ちょっと前までは、リハビリがてらに世界一周公演ワールドツアーなんかもやっていたのよ」


「世界一周公演ねえ」


 携帯端末で、検索をかける。


「ほんとだ。有名な歌手さんだったんですね?」


「知らなかったのね。なんということ。わたしのことを知らないなんて」


「いや、知らない人間はいると思いますけど普通に」


「わたしも、まだまだね」


 その知名度への欲求は、どこから来るのだろうか。


「世界中の男に聴かせるのよ。わたしの歌を」


「ばかみたいだな」


「あなたは聴かなくていいわ。あなたみたいな男は願い下げよ」


 世界中の男を虜にでもしようというのか。


 それにしても。


「ぜんぜん、違う人間みたいだ」


 端末の検索結果に出てきた彼女の姿は、晴れやかに着飾っている。


「まあ、人に見てもらうわけだから。これぐらいは普通よ」


「けばけばしいな。派手すぎる」


「あんたに何がわかるのよ?」


 にらまれた。


「いやいや。今のあなたの格好のほうがずっと綺麗ってことですよ」


 いまの彼女。髪を短く切り揃え、動きやすい服装。飾り気のない、首筋。


「あ、そ。ほめても何も出ないわ」


「そうすか」



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