03

 それからは。


 晴れている日は、外で遊ぶ彼を眺めて。雨の日は、彼が家に来て、わたしが勉強を教えてあげた。


「にほんごむずかしい」


 彼は、わたしと同じぐらいの年齢で。


「そうそう。うまいうまい。よく書けてるね?」


 年齢相当の、知能だった。これは、わたしのほうがなんというか、おかしい。この年でかんじ書けるし。簡単なけいさんも、できる。


「すごい。べんきょう、できるんだね」


 彼は、そう言ってわたしをほめる。


「ねえねえ。なまえをおしえて?」


 そう言われたので、名前をかんじで書いた。夜小やさか奈百ななしろ


「よめない」


 振り仮名を、振った。やさかななしろ。


「ええと、やさか、な、なな」


夜小やさか奈百ななしろと言います。どうぞおみしりおきを」


「じゃあ、ええと、ななちゃんだ」


「そうだね。ななちゃんです。あなたは?」


「ぼくは、きりゅうかげちか、っていいます」


 きりゅうかげちか。どう書くのだろうか。


「かんじはわからないので、こんどおとうさんとおかあさんにきいてきます」


 彼の、笑顔。


 それが、最後だった。

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