02

 次の日。


 晴れていたのに、彼は外で遊んでいなかった。


 わたしは、おなかにやさしいお粥をゆっくり食べながら。父親とお昼のドラマを眺めていた。


 彼が来たと、母親が伝えてきた。父親が部屋にひきいれる。


 彼。


 昨日までとは、まるで違う雰囲気。じっと、やさしくしている。


「きのうは、しつれいしました」


 謝られる。なぜ謝っているのか、昨日もそうだったけど、ぜんぜん分からない。


「きょうは、ごいっしょしても、いいですか?」


 わたしではなく、父親がふたつ返事で了承した。


 三人で、お昼のドラマを眺める。彼には、お菓子が出されたけど。彼は手をつけなかった。


 二分もたたないうちに。彼がうとうとしはじめた。


「小さな子供に、このドラマは分からないかもね」


 そう父親に言ったら、お前も小さな子供じゃないかと言われた。たしかに。わたしも小さい子供だった。


「おとうさん。この子と遊んであげて?」


 うとうとしていた彼が、びっくりして顔をあげた。


「あ。ごめんなさい。ねむりそうになっちゃって」


 また、謝られる。


「謝らないでください」


「はい。ごめんなさい」


 会話が成立しているけど、成立してない。


「わたし。お外で元気に遊ぶのを見るのが、好きなんです」


 そう言って、父親に目配せ。父親も理解してくれたらしく、彼を元気よく外に連れ出していった。


 外を、食器洗いから帰還した母親と一緒に眺めた。


 最初はこちらを気にしておろおろしていた彼も。次第に父親と打ち解けて、いつも通り元気よく遊びはじめた。そして、いつも通りに彼の周りに他の子供が集まって。遊びはじめる。


 任務を終えた父親が帰還した。


「ありがとう。おとうさん」


 外で元気に走り回っている彼を。お粥をゆっくり食べながら、眺める。あんなふうに、元気よく楽しむ姿。うらやましいとは、思わなかった。一度もああやって遊んだことはないから。


 ひとしきり遊んだあと、彼はもういちど私のところに来て。ちぢこまりながら、控えめに。


「たのしんでいただけたでしょうか?」


 と言った。


 言われた瞬間は、何を言っているのか分からなくて。


 でもすぐに。理解した。彼は。わたしに見せるために。元気に走り回っていた。わたしのために、外でたくさん遊んでいたのか。それが、分かってしまって。


 急に。涙が出てきた。泣き出す。


 遠目で見ていた母親と父親が、駆け寄ってくる。


「ありがとう。楽しかったです。また、遊んでる姿を。見せてください」


 感謝の気持ちを込めて。昼から置きっぱなしだったお菓子を彼に渡して。なんとか、涙をこらえて。せいいっぱいの笑顔で。彼に笑いかけた。

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