静かな湖畔であなたと唄う

春嵐

01

 窓の外の草原を眺めるのが好きだった。


 草原で遊ぶ、子供。自分ではない、誰か。


 彼は、自分とは違って。身体が強くて。いつも元気そうにしていた。窓から、その姿を見ていつも。元気をもらっていたような気分になった。


 わたしは、身体が弱くて。走ることも外で遊ぶこともなく。いつも部屋の片隅で、外を見ていた。走り回る、彼の姿を。


 彼が帰ったあとは、いつもドラマを見たり漫画を読んだり勉強をして。弱い心と身体を忘れようとした。


 ある日。


 遊んでいる彼と。目があった。


 そしてすぐ彼の姿が消えたので、わたしはかんじ練習を始めた。お勉強で、弱い自分を忘れる作業。


 鉛筆を削って。ページの半分ぐらいまで書いたところで。


 わたしの母親に付き添われて、彼が。部屋に入ってきた。


「ねえ。おそとでいっしょにあそぼうよ?」


 にこっと笑った、彼の笑顔。


 子供心に。


 彼のことが、好きになった。ひとめぼれだったのかもしれない。


「ごめんなさい。あまり肺とか脚とかが強くなくて。日照にも耐えられないの」


 彼。きょとんとした顔。言葉が通じていないのに気付いて、なるべく、やさしい言葉に切り換えた。


「ごめんなさい。からだがよわくて、おそとであそべないの」


「からだが、よわいの?」


 彼。不思議そうな顔。


「うん。ごめんなさい」


 すぐに。


 彼の顔が。


 崩れる。


 泣き出した。


 すぐに、遠くから見ていたわたしの母親が飛んでくる。


「わたし何もしてない」


 それは母親も把握していた。彼をあやそうとしていて。


「いえ。ごめんなさい。ぼくがわるいんです。しらなくて。おそとにでれないなんて。ごめんなさい」


 彼は、わたしの母親の介抱をやさしく固辞して。わたしの近くにちょこんと座った。


「ごめんなさい。また、きます」


 そう言って、勢いよく立ち上がって。勢いよく走り去っていった。

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