159 真っ黒森
もともとは海に行くための足掛かりとして草原を攻略するつもりだった。しかし海以上に興味を惹かれる石板を発見してしまったため東の大森林へと足を運ぶことになった。
カッコウの空からの偵察、ラプトルの機動力は探索にとても有用で、それほど苦労せずに大森林の外部に来ることができた。
こいつらは干し肉などの携帯食料によって現地調達しなくていいことにかなり驚いていた。狩りの手間が省ければ時間的にも危機管理としても余裕が生まれる。やはり食い物こそパワー。
意外だったのは納豆がラプトルやカッコウにも好評だったこと。臭いせいで敬遠されるかとも思っていたけど杞憂だったようだ。意外にゲテモノ食いなのかな? それとどうもラプトルは甘味を味わえないみたいだ。猫とかは甘味を感じることができないらしいからそれと同じようなものか? もったいない。甘いものはうまいのに。
でもこれはちょっと問題だ。種族によって味覚が違うのは結構めんどくさい。食べてはいけない物とかも違うのもまためんどくさい。アレルギーみたいに成分表示義務みたいなものを導入するべきか?
「もちろん我らもあの森に住むことを考えたことはあります」
道案内を買って出たラプトルの将軍……その名を翼!
適当じゃねーかと言いたくなる気持ちもわかる。しかしこいつやたら駄目だししてきてさあ。なかなか決まらなかったから思い付きで言った名前になっちまった。
「ですがあの森の固い虫は強大で我らでさえも攻めあぐねます」
翼が語るところの固い虫その正体は……カブトムシとクワガタムシだ。
一筋の矢が森の木々をすり抜けるように飛んでいく。象ほどもある暗い甲冑のような体に迫るが――突き刺さることはなく慣性を失った矢は力なく地面に落ちた。
矢を攻撃とみなしたカブトムシはこちらに向かってくる。巨体であるがゆえに動きは鈍い……と思いきやスピードに乗れば意外に速い。甲虫であるからか硬化能力が非常に優秀で、体を硬化させながら動くこともできるようだ。移動要塞かよ。
多分オレたちよりも硬化できる場所を細かく指定しているみたいだ。関節などを柔らかく、動きやすいままにして、そのほかの動かす必要がない部位だけを硬化させている……多分だけど。
再び矢を放つ。今度は十本同時に宙を駆けるが、突き刺さったのは一本だけだった。
「おっけー。大体わかった。全力で逃げろ」
弓矢を放った蟻はラプトルに乗って逃亡する。みんな憧れの騎兵の第一歩だ。
ま、あんまりうまくいってないけどね。ラプトルに乗るのはかなり難易度が高いらしく練習が必要なようだ。乗馬なんてやったことないからアドバイスもできないからな。まあそもそもラプトルに乗ったことがある地球人なんていないけどさ。
ただ、何だろうか? 何か凄い初歩的なことを忘れている気がするんだけど……わかんないな。
「って!? おいよけろ!?」
小石混じりの砂利が矢のお返しだとばかりに飛んでくる。カブトムシの魔法による攻撃だ。
カブトムシの魔法は実にシンプル。角の上に乗せた物を吹き飛ばす。カブトムシ同士の戦いなどで知られる性質が魔法になったんだろう。
しかしでかさがでかさだ。人間くらいならサッカーボールのように吹っ飛ばせる。今のように飛び道具として何かを飛ばすこともできるようだ。単純であるからこそ素の強さがよく表れている。
地球の戦力で例えると、破城槌と投石機で武装した象兵みたいなもん? 象兵は昔の戦争だと上手く運用すれば戦局を一気に変えるくらいの戦力だったらしいからな。それがそこらへんをうろついてるんだからなあ。どっかおかしいぞ。
そしてこのカブトムシはどうやらクワガタとも同盟を組んでいるらしく、一緒になって襲ってくることもある。そして何より数がそれなりに多い。
今回はたまたま一匹だけだったけど、数十匹の群れを作っていることも珍しくないらしい。かなり強いくせに群れるのはずるいぞ。ま、戦いってのはずるい方が勝つけどね。
森を進めばそこそこの頻度で遭遇するし、草食動物のくせに結構積極的に攻撃してくる。目はそんなに良くないけど鼻が利くようだ。
むう。それじゃあ奴の強さがどんなもんかじっくり考えてみよう。
今までの戦った魔物の中だとヤシガニよりは弱いかな。ただしそれはあくまでタイマンなら。数の利を活かして飛び道具を連射されたら手が出ない。つうかむしろヤシガニが強すぎるんだよ。あいつ一部の例外を除けば単騎の接近戦だと未だにトップクラスの強さだよ。
また脱線したけど防御力もそこそこ以上だ。距離が近ければさっきみたいに現状の弓矢でもぎりぎりダメージを与えられるけど距離が遠いと弾かれる。
仮に百匹いるとすると倒すのにどれくらい苦労するかな。
さっきダメージを与えたのは十発中一発。単純に考えて10%の命中率。
倒すまでに大負けに負けて十発当てる必要があるとしよう。一匹倒すのに必要な矢の数は百本。百匹いれば一万本。
しんどい計算結果だ。この結果が正しいなら一万人の蟻が一斉に矢を放てば全滅させられるということ。適当な机上の空論だけどこれがどのくらい大変かは見当がつく。数字としてはっきり示されるとよくわかる。やっぱり戦争は筋肉だけじゃできないな。
「如何でしたか王よ」
「確かにこれは簡単には攻略できないな」
蟻のメイン武器である矢が通じにくいとかなりしんどい。他の攻撃手段はいくらでもあるけど数百匹の大群を相手にするにはちょっと足りない。
あのカブトとクワガタ、略してカブクワは飛びぬけた能力はないけどどれもこれもよくできる優等生みたいな感じだ。弱点はそれほど足が速くないくらいか。どっちかというと弱点を突くことを得意とするオレにはやりにくい。
真正面からの戦いはなしだな。何とかして群れを混乱させたり確実に一撃で仕留めつつ逃げるなりなんなりできないと難しいかな。
そしてあいつらの一番厄介なところは……女王蟻の魔法、つまりテレパシーと探知能力が一切効かないところだ。多分宝石がダイヤか何かなんだろう。あいつらを仲間にするのは極めて困難と言わざるをえない。
はー。戦っても得るものがない。そのくせ戦いを回避する方法が思い浮かばない。それが一番だるいよ。
「翼。ひとまず敵がいなさそうな場所に巣を作って拠点にする。同行している蟻達と協力してくれ」
「承知いたしました」
時間があるわけでもないけど焦りは禁物。じっくりやっていこう。
そしてもう一つやってみたいこと。ヒトモドキの首都……ではないみたいだけどとにかく今確認できる中で一番でかい街に行ってみたい。蟻だと近づいた瞬間に撃たれるかもしれない。しかしカッコウの飛行能力と魔法があれば奴らの情報をかなり引き出せるはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます