156 ファントムペイン
というわけで打ち上げという名の宴会だぜイエーイ。
まあ移動したり治療したり埋葬したりなんやかんやでもう夕方ですけどね。そのうち医者とかも必要だなあ。現在ラプトルは二十人程度のグループに分けて別々の巣に移送させている。固まっていると良からぬことを考えるかもしれないし。
豚羊もオレたちの部下ではないけどひとまずお試しで行動を共にするつもりみたいだ。
これから事後処理は部下に任せて問題ないだろう。めんどくさいことを任せられることがこんなに幸せだとはなあ。
さて今日の献立はなんとおおお、ハン・バー・グ――――! 遂にここまで来たぜ!
……ただ豚羊の肉だから奴らにはご遠慮願おう。一応協力者相手の肉を食うことに対して抵抗はないわけじゃないけど腐らせるのももったいない。別に文句を言ってこないので、豚羊にはあいつらなりの弔い方があるみたいだ。
というかそもそもオレたち葬式とかせずに死体を食べるしね。強いていうなら食葬? みたいな弔い……になるのか? 弔いって呼べるのかそれ……? ま、いっか。
ひとまずラプトルの胃袋をキャッチするのが最大の目的だ。後牛乳……じゃなかった、豚乳? の味見をしないと。豚乳にガラクトースが含まれていてなおかつオレたちがガラクトースを分解できないと乳製品全般がアウトになってしまう。
それ以外でも利用価値はあるけど牛乳駄目だとテンション下がっちゃうからなあ。
まず豚羊をばらしてミンチ肉にする。ついでに内臓も確認してみたけど胃の数などから豚よりもウシ科に近いみたいだ。確か豚の胃は一つだったはず。反芻動物であるのは間違いないかな。
玉ねぎなんかはないし、卵は虫の卵があるけど……あの卵ちょっとべちゃべちゃしてるからつなぎにはならないんだよな。パン粉は作れなくはないけど時間が足らない。無いなら無いなりにやるしかないか。
ミンチ肉をこねる! 塩を加えて、ナツメグはないからドライジンジャーを入れる。つなぎとして水溶き片栗粉を入れてみるけど、大丈夫かなあ。
こねこね。
こねこねこねこね。
こ猫猫猫。
子子子子子子子子子子。
人数が増えたからなかなか終わらない。手伝ってくれる奴も増えたけどさ。
「あ、こねるときは熱が伝わたないように指先で手早くこねろよ」
「「「はい」」」
我が国が誇る料理人部隊はたった数人。ちょいちょい手伝ってくれる奴はもっといっぱいいる。というか基本飲込みが早い蟻は簡単なことならすぐできるようになるのでみんな大体料理ができる。メシマズなどこの国には存在しない。そうは言っても教えているオレの料理スキルそのものがそんなに高くないからめちゃ美味いわけじゃないけどね。
「こねたハンバーグをこうぱんぱん叩きつけて空気を抜く。それからちょっと真ん中をくぼませる。おけ?」
「「「おけー」」」
つけあわせとしてジャガイモと蜘蛛豆をゆがく。こっちは部下にやらせてる。
そして焼いていく。大豆から取った油を使う。
焼き色がついたらひっくり返してキノコを隣でさらに炒める。ホントならここで蓋をして蒸すけど焦がすのが怖いから煮込みハンバーグにしよう。ていうか前世でハンバーグ作った時に焦がしちゃってるんだよね。薪だと火加減が難しいから確実に焦がす自信がある。なので煮込む。
ワイン煮込みならぬシードル煮込み。正直オレたち酒飲まないから普段は調味料としか使い道がない。そもそも魔物は酔わないみたいなんだよね。アルコールを分解する能力が地球人より高いのかな? ま、それはともかく火加減に注意しないと。
「火がちょっと強いかな? 水とってきてくれ」
やっぱりガスコンロって便利だよな。つまみを捻るだけで火加減が調節できるんだから。
水とアルコールが飛んだら水溶き片栗粉でとろみをつける。あ、ちょっと水飛び過ぎた。かなり固まっちゃった。……ま、いっか。とりあえず完成!
シードル煮込みハンバーグwithジャガオ蜘蛛豆! まんまやないかい!
ではお味見っと。
おー。なかなか美味いじゃん。とろみが肉汁と絡んでいい味出てる。難点はハンバーグのふわふわ感がないことかな。パン粉に牛乳を含ませるんだっけ。そういうことをしないとカチッとしたハンバーグになっちゃうんだ。これはこれでありだけどね。
さて野外テーブルに揃ったメンバーは肉食組の千尋、寧々、ラプトルの将軍&%#……わかりにくいからそのうち名前つけるか。そしてもう一人さっき片腕を切れと命令した奴。警護の蟻は他にもいっぱいいるけどね。
「よくオレの命令を聞いたな。詫びにもならないと思うけど美味いもん食ってくれ」
「わーい」
負傷した蟻にハンバーグを渡す。こいつだけ特別扱いは良くないかもしれないけど他とは違ってオレの命令で自分から負傷した奴だから多少の配慮は許されるだろう。
もぐもぐとハンバーグを食べる一同。今のところ牛乳を飲んで腹を壊した奴はいない。ひとまず乳製品の開発をスタートしていいかな。
「それにしても……あのような命令を出した戦士をこの食事に呼ぶのですね」
「ん? 変か?」
「いえ、てっきり捨て駒かと」
「必要ならそうするけどさ。いちいち捨ててたらもったいないだろ。それにちゃんと命令を果たした奴を労うのは当然だろ」
「……なるほど。これだけ多様な種族を治めるにはそう言った心掛けが重要であるのですね」
「まあね。こいつらがオレについてくるのはそれだけ利益があるってこと。オレが生き延びた方が全体にとっての利益につながるってことを証明しているからだよ」
生物にとっての義務が遺伝子の保存であるとすれば女王蟻であるオレに働き蟻が尽くすのは当然だ。
しかし他の種族の場合は話が別。ちゃんとオレが役に立つと証明しなければならない……できてるよな?
「んで? &%#だっけ。味はどうだ」
「美味でございます。我らにも食事を振舞っていただけるとは思いませんでした」
「今日は特別だ。次からは働かなければ飯抜きだ」
「御意に」
数年前からの忠臣のように丁寧な物腰だ。……裏がありそうな気もするけどな。
「上で飛んでる連中も連れてきてくれ」
「お気づきでしたか」
「当然だ」
ラプトルは驚いた風もなく、上を見上げた。多分オレたちには聞こえないけどエコロケで上空の鳥を呼んでいるんだろう。
やがて一羽の鳥が上空からふわりと舞い降りた。
青みを帯びた体だけど、翼は色が濃い。腹は白く、眼は黄色の縁がついているように見える。
(こいつ、カッコウか?)
見た目からはそう見える、カッコウらしき鳥はややカタコトで挨拶した。
「コッコー。はじめまして、()、&です」
()&が名前みたいだ。翻訳できてないのか?
「彼女らは何度か話をしないと上手く喋れないのです。我々の言葉であれば達者に話せるのですが」
エコロケで会話できるのか。地球のカッコウにそんなことができるはずはないけど、こいつも何かと混じってるのかな。
詳しく話を聞くとカッコウの魔法はただのテレパシーではなく、他の魔物と感覚も共有できるらしい。女王蟻の魔法だと蟻以外の魔物とは感覚共有できない。
ただし、慣れるのに時間がかかるうえに一度一種の魔物にピントを合わせると別の魔物とは会話が難しくなるようだ。一種類の魔物とだけ特殊なテレパシーが行えるようになる魔法かな。
<リンク>でいいかな。でもこの魔法……うーん。
「それはそうとお前らの名前何でそんな変なんだ? どんな名前なのかさっぱりわからないんだけど」
「恐らく王は我らの言葉を真に理解できていないからでしょう。我らの幼子の時分にそのようなことがあります」
オレ子供扱いかよ。
「具体的にはどうすればいい?」
「像を結ぶように受け取るのです」
なるほど。わからん……わけでもないか。以前少し話したけどイルカの言語(言語と呼んでいいかはともかく)もエコーロケーションを利用しているらしい。それゆえに人間の二次元の言語とは違い三次元の会話を行っているとか。
像を結ぶとはテレパシーを二次元ではなく三次元で受け取れということじゃないか?
やってみるか。
「オッケー。もう一回言ってみてくれ」
「では」
そしてようやくラプトルの名前のイメージを受け取ることができた。
しかし問題は二次元の言語法である地球人類の言語でどう言い表せばいいのか。うーむ。
そうだなあ。名刺ってあるじゃん。その名刺が紙じゃなくてプラモデルでできていたらこんな感じかなあ。言いたいことはわかるよ。プラモが名刺ってどないやねんって。でもそうとしか言いようがないんだよ。
え? 何のプラモかって? オレの国語力と知識を総動員して答えよう! 強いて言うなら……
ウィングガン〇ムだ!
う、嘘じゃねーし! ホントにそんな感じなんだって!
ちなみにカッコウの方はえーと、ほらあれだ、動物型ロボットの……サーベル〇イガー!!
何で鳥のくせにネコ科なんだよ! 異種族コミュニケーションむずいなおい!
「つーかそもそも何でお前ら協力してんの? 昔からそうなのか?」
「しかり。我らは古より固い絆で結ばれております。苦楽と痛みを分かち合う盟友にございます」
苦楽はともかく……痛み?
「もしかしてお前たちの痛みは共有されてるのか?」
「はい」
あーなるほど。オレにも経験がある。感覚共有している相手が傷ついた場合自分も痛みを感じるんだよ。文字通り死ぬほど痛い。そりゃ裏切らないわけだ。というか裏切りたくても裏切れない。
「でも大丈夫か? あれって慣れたら無視できるようになると思うんだけど」
「そうですか? 慣れることなどないはずですが」
蟻とカッコウじゃ感覚共有の仕組みが違うのか?
「紫水。我々はいつも痛みを感じてますよ」
「ほえ?」
あ、いかん。寧々の言葉が予想外だったから変な声出ちゃった。
「うっそお。慣れたら無視できないか?」
「いえ、誰かが傷つけば必ず痛みを感じます。名前のない女王蟻や千尋であっても」
今まで全く気にしていなかった新事実発覚。どうやら感覚共有した相手だけじゃなく、普段から一緒にいる魔物はある程度感覚が伝わることがあるらしい。特に痛みに関しては鮮烈なイメージとして伝わるらしい。ある程度は種族差や個体差はあるみたいだし、離れれば感じなくなる程度の弱い繋がりみたいだ。
これはあれかな。人間が言葉を覚えるように無意識的にテレパシーを通じやすくすることができるのかな。そうなると異なる魔物同士を幼いころから育てていればそいつらは自然と仲良くなる、少なくともお互いに攻撃できなくなるわけか。
他種族国家を作るにはかなり有益な情報だな。ただこれやると敵と戦う時に痛みを共有しちゃわないか不安になるな。
逆に全く他の魔物と接触させなければ没交渉のままでいられるのか。ヒトモドキが海老やデバネズミと極力接触しないのは奴らが外交を行うつもりがないことの証明だな。
「でも何でオレだけ痛みを無視できるようになったんだろうな?」
「何か練習しましたか?」
「覚えがないなあ」
なんとなくうっとおしいかと感じてたけどそれだけだ特別な何かをしたことはない。
「では、王が特別だということでしょう」
……特別? オレが? 特別でスペシャル!?
これはもしかしてあれか!? 固有能力って奴!? やったぜ! ようやくオレにもそんな力が!
オレの能力、いうなれば……他人の痛みを無視できる能力!
……微妙すぎるわあああああ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます