少年窃盗団の放課後④




三人が座っている中、学人が立ち上がった。


「そろそろ行ってくる。 俺の合図があるまで、二人はここにいろよ」


学人は司令塔であるが、自分が率先して行動することを信条としていた。


「了解」

「頑張れよー」


学人の合図待ちの二人に見送られ屋敷へ向かう。 今日西園寺家では、パーティが開催されるという情報を掴んでいる。 

三人はパーティに招待されているわけがないため、空いている窓からこっそり侵入するしかない。 ただ紛れてしまいさえすれば、どうとでもなると確信していた。


―――よし、あとは平然を装って堂々としているのみ。


会場へ足を運ぶとあまりの人の多さに驚いた。 時間も限られているため早速とばかりに夫人の姿を探す。 だがどこを見渡しても情報で知った夫人の姿が見つからない。


―――・・・あれ、いない?

―――まだ来ていないのかな。


探していると周りが一気に静かになった。 会場にいる人は皆一ヶ所へ視線を集中させていたため、学人もそこに視線を合わせる。 すると大きなドアがゆっくりと開き夫人が姿を現した。


―――いた・・・!


「西園寺さん、今日もお美しいわね」

「えぇ。 西園寺さんのご友人で本当によかった」


夫人の首元には今回狙いのネックレスが妖艶に輝いている。 その価値は学人自身もよく分からないが、高価であることは確かだろう。


―――まずは夫人が持っているグラスに近付かないとな。


夫人を褒めちぎる人たちを掻き分け、夫人に近付こうと試みるが、多くの大人に囲まれているためなかなか前へと進まない。 ぶつかってしまうと幾人かに注目された。


「あら? 僕可愛いわね。 どこのお坊ちゃん?」

「え? あ、えっと、僕は・・・」


予想もしていなかった事態に慌てふためいてしまう。 その間に他の女性たちも寄ってきた。


「本当に可愛いお坊ちゃんがいるじゃない! 君のご両親はどちらへ? 是非お近付きになりたいわ」

「あー、えぇと、ごめんなさい! 僕は今、至急お手洗いを探しているので・・・」

「あら残念。 またお会いしたら話しましょうね」

「あはは・・・」


何とか女性たちの輪から外れ、会場の隅に避難した。


―――危なかった・・・。


会場を改めて眺めてみれば、子供は十人もいないくらいなため目立ってしまう。 服装では完璧に装えているが、やはり場慣れしていない自分は浮いているのではないかと思ってしまった。


―――俺の背が小さいから、余計に目立つのかも。


落ち込んでいると、ピアスが短く一回長く二回震えた。 “大丈夫?”という合図だ。


『あぁ、悪い。 少し手こずっている。 もう少し待っていてくれ』


そう伝えると気合を入れ直し夫人探しからもう一度始めた。 だが間の悪いことに、キョロキョロしながら歩いているうちに偶然にも夫人と衝突してしまう。 

その際に夫人が持っていた飲み物が零れ飛沫が飛んだ。


「ご、ごめんなさい!」


ポケットからハンカチを取り出しワインが零れた床を拭く。 それが逆に自分を冷静にする機会になった。


―――・・・これはチャンスかも。


偶然ながら目標の夫人、しかもグラスに接触する機会を得たのだ。 これを見過ごすわけにはいかない。


「私は大丈夫よ。 幸いドレスには零れていないし。 君こそ大丈夫?」


その言葉を聞き立ち上がり、深々と頭を下げた。


「はい、僕も大丈夫です。 でもこれは僕の失態。 新しい飲み物を代わりに注いできます」

「そこまでしなくてもいいのよ」

「いえ、どうか償わせてください」

「・・・ありがとう」

「このワインはどちらのものですか?」


夫人からグラスを受け取り飲み物を注ぎに行こうとする。 教えてもらったワインを注ぐと、ハンカチで飲み口を拭く動作を見せた。 その隙に睡眠薬を包んだオブラートをグラスの中へ入れる。


―――よし、これで証拠もない。


元の場所へと戻り夫人にグラスを渡した。


「どうもありがとう。 パーティを楽しんでね」


夫人は去っていった。 少々危うかったが、これで準備は整った。


『遅れてごめん。 スン、向かっていいよ』 


―――人がいるところでの行動は初めてだから、全然上手くいかなかったな・・・。

―――もっと経験を積まないと。



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