少年窃盗団の放課後③




「よし。 次に道具の確認をするぞ。 イヤホンから俺の声がちゃんと届くかどうか、聞いててくれ」


学人の両親は発明家で、窃盗に役立つ少々変わったものを作り出す。 まだ学人にはその能力はないためそれを借りていて、問題がないかを確認する必要があった。

イヤホン越しに聞こえる学人の声に、翔と駿平は両手で丸を作り“聞こえる”という合図を出した。 それを見た学人は戻ってくる。


「小さい声でもちゃんと届くな。 OKだ」


順調に道具の不備がないか確認していく。 学人は三人の中で指揮を執るリーダーで、学人だけが他の二人に指示を出せるよう小型マイクを付けている。 

翔と駿平はイヤホンのみで応えることができないのは、実動中の混乱を防ぐためだ。


「あ、そう言えばさ。 たまにマイクを使って、グチグチと日常の不満を言ってくるのは止めてくれないか?」

「はぁ?」

「イヤホンは外せないし、耳障りなんだ」

「仕方ないだろ。 ストレス発散くらいさせてくれ」

「こういう仕事の時に言われるのはまだいいけど、普通に生活をしている時に言われるのは困るんだよ。 スンもそう思うだろ?」


翔は同い年のためか、リーダーである学人にも対等に文句を言う。 駿平も同意を求められたため、二週間前のことを思い出していた。


「あ、う、うん。 特に学校でこういう仕事の話をするのとか、止めてほしい・・・」

「情報はいち早くに伝えた方がいいと思ってな・・・」


翔と駿平は学人をジトリと見つめる。 その圧に負け学人は渋々それを受け入れたようだ。


「・・・分かった、極力気を付ける。 じゃあ次。 ショウ、笛を吹いてみろ」


翔は首に下げている普段は見えないようにしている笛を取り出し吹いた。 それに呼応するよう、学人と駿平が耳たぶにしているピアスが震え出す。


「よし、ちゃんと振動は伝わってくるな」


翔が持っている笛は人間の耳では聞こえない周波数で鳴る。 笛の振動がピアスにだけ伝わり合図が分かるようになっていた。 もちろんこのピアスも特別製だ。 

振動の仕方によって合図が変わり、それは作戦ごとに変えている。


「じゃあ合図の確認だ。 短く一回鳴らしたら“Yes” 短く二回鳴らしたら“No” 長く一回鳴らしたら――――」


翔は三人の中で一番運動神経がいい。 だから動きながらでもコミュニケーションが取れるように、この笛を作った。 そこで学人が先程のお返しとばかりに不満を漏らした。


「そういやさぁ。 そういうショウも、普通の日常生活で笛を鳴らしてくるだろ? 耳が振動するの地味に痛いんだからな」


―――そうだそうだ。

―――慣れるまでに時間がかかる。


「暇なんだから仕方ないだろー」

「あとたまにある、決めた合図ではなく普通の言葉として送ってくるのも止めてくれ。 長い時間痛いし、そもそも何を伝えたいのかが分からない」

「え、分からないの!? スンにも伝わらないのか?」


その言葉に素直に頷いた。


「マジかよー・・・。 汲み取ってくれよ、雰囲気で・・・」


何故か翔は落ち込んだ様子だ。


「じゃあラスト。 スン、武器の位置は把握できるか?」


駿平は普段から前髪で左目を覆い、片眼鏡を隠している。 このレンズには金属製の武器の位置が表示される。 三人の中で駿平が一番鈍臭いということで、この片眼鏡を持たせてくれた。 

自分の身は自分で守れるように、ということだ。


―――どうして僕だけこの道具なんだろうなぁ・・・。

―――確かに一番鈍いけど、そこまで僕は弱くないし・・・。


鈍臭いと言っても一般の人と比べたら運動神経はいい方だ。 あくまでもこの三人の中での話。 

だが基本武器を持たない戦闘をしないのは、まだ身体の成熟していない子供であるため素手だと自分の身が保たないからだ。 駿平は片眼鏡に付いている小さなスイッチを押し武器の位置を調べた。


「うん、ちゃんと場所は分かるよ」

「今から行く屋敷に、倉庫があったよな? そこに武器らしきものがあるんだっけ。 この場所からどのくらいかかりそう?」

「んー・・・。 会場を大回りして行かないといけないから、最低でも五分はかかりそう」

「五分か。 了解」


―――今回の仕事は、確かに気が乗らないけど・・・。

―――白花さんの家の間取りが分かったし、中にも入れるし、少しはこの仕事に感謝をしよう。


道具の確認、そして計画の確認は決行時間ギリギリまで行った。


「ショウ、スン。 聞いてくれ。 いつもは狙うモノが保管されている部屋で、三人で一緒に向かい行動をしていた。 だけど今回はみんな別々。 初の試みだ」


その言葉に二人は頷く。


「だからすんなり成功するとは思っていない。 ・・・だけど二人共、全力を尽くして上手くやれよ」



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