少年窃盗団の放課後②




計画実行の直前、駿平の気がこんなに乗らないのは、盗みに入るのを嫌がっているからではない。 盗みに入る相手の家に問題があった。 駿平の頭に浮かぶのは計画が決まった日、二週間前まで遡る。

駿平の性格は明るい方ではない。 そのため基本一人でいることの方が多かった。 ただし昼休みになると駿平の周りには人だかりができる。 

それは得意とするマジックを見ようと他のクラスからも生徒が集まってくるためだ。 マジックは窃盗をするのに生かせるだろうと思い始め、日々練習を積み重ねた。 

その練習風景を見られ、マジックが得意な男子生徒ということで広まり、思いもよらず人が集まってしまったのだ。


「駿平! 今日もマジックを見せてくれよー!」

「俺も俺も!」


正直なことを言えば、窃盗団として活動をしているためあまり人と関わるのはよくない。 それでもやはりまだ駿平は子供なのだ。 人気者として友達が集まってくれば内心で嬉しいことは隠し切れない。


「あぁ、いいよ。 何のマジックがいい?」

「最初と言えばコインだろ!」


そう言われ差し出された500円玉を受け取った。 人にマジックをするのは練習になるし、やはり人に見せてこそ自分のマジックの上達が分かるというものだ。


「じゃあ、いくよ」


手の平の上にコインを置いた時、ふと一人の少女が視界に入った。 ここら辺で一番のお金持ち、西園寺白花だ。


―――ッ、白花(ハナ)さん・・・!


駿平は彼女に片思いをしている。 だけど相手はお嬢様で自分は窃盗団。 あまりの差にアピールすることすら諦めていた。 目が合ってもすぐに視線をそらし、ポーカーフェイスで平常心を装う。

コインに集中しようとすると、今度はイヤホンから学人の声が聞こえてきた。


『おーい! ショウ、スン、聞こえるかー?』


あまりにタイミングの悪い唐突な声に、肩をビクリと震わせその場を離れる。


「ご、ごめん! 先にトイレへ行ってくる、それまで待ってて!」


受け取ったコインをポケットに入れ、人がいない廊下へと急いだ。 静かになったところでイヤホンに耳を傾ける。


『次の場所が決まったぞー。 だから今のうちに伝えておく』


悪戯で使われることもあるが、大半は窃盗団としての連絡手段として使われる。 次の場所というのは次に盗みに入る場所のことだ。


―――別に、学校で言わなくてもよくない?

―――ガクは友達がいなくて暇なのか?

―――・・・いや、あの利口で頭のいいガクに限って、そんなことはないか・・・。


文句を言っても仕方がないが内心でそう零していると、信じられない言葉がイヤホンから流れてきた。


『次の実行場所は西園寺家だ。 金持ちの家だな』


―――・・・は?


『で、狙うのは西園寺家の夫人のネックレス。 場所とか細かいことはまた伝えるけど、位置的には駿平が一番近いか。 ということで、よろしくなー』


それだけを言ってプツリと切れた。


―――何それ、無理無理。

―――だってそこ、白花さんの家でしょ!?

―――白花さんの家から盗むなんて、そんな・・・。


学人と翔、駿平は住んでいる地域と学校が違う。 まさか好きな女子の家が次の場所になるなんて思ってもみなかった。 駿平には言い返す術がないため諦めて教室へ戻る。


―――・・・一気にテンションが落ちた・・・。

―――どうして学校で言うんだよ・・・。

―――いや、家で言われても嫌だけど・・・。


教室へ戻ると、500円玉を受け取っていた男子が叫んだ。


「おーい、駿平ー! 早くしろよー! 俺の金を盗んだわけじゃねぇよなー?」

「あぁ、もちろん。 盗むわけがないよ」


席へ戻るとマジックを再開する。


「じゃあいくよ。 このコインをよく見て。 1、2の、3!」


数字を数えると手の平の上にあったコインが一瞬にして消えた。


「うわ、凄ッ! どこへ行ったんだ!?」


驚く男子の胸ポケットを指差す。 そこから先程のコインが出てきた。


「やっぱり駿平はすげぇよ!」


心は沈んでいるがポーカーフェイスで何とか乗り越えた。 その時女子からも声がかかる。


「駿平くん。 私たちも見ていい?」

「も、もちろん。 どうぞ。 次はカードのマジックにしようか」


話しかけてきた女子の中には白花もいた。 彼女は時々駿平のマジックを見てくれる。 ポーカーフェイスで誤魔化すが心臓はバクバクだった。 これらが理由で、駿平は実行が乗り気ではなかったのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る