Epi84 周知でも変化は少ない
全校朝礼当日。
昨日は明穂によるお祝いとかで、盛大に食われ捲った俺でした。
今朝は出涸らし状態でかつ、疲労困憊なまま登校して、しかし明穂は元気一杯でこれでもかと、パワーアップしてるし。
俺の腕を取って踊るが如く周りをまわって、俺も振り回されて。
「校長から大貴の受賞の件、報告あるんだよね」
「そうみたい」
わざわざ全校生徒の前で恥ずかしいから止めて欲しいんだけど。
それと、もうひとつ恥ずかしいことが。
「新聞の取材?」
「そう。今年度受賞者にインタビューだって」
「すごいね。新聞に載るんだ」
「恥ずかしいし受けたくないんだけど」
俺の隣で苦笑しながら見つめる明穂が居る。
「表彰式もあるんでしょ」
「あるみたい」
「あたしも行けたらよかったのに」
「関係者だけだし」
残念そうな明穂だけど、式典なんて関係者でやるものだし。
学校に到着すると教室に鞄を置いて、集合場所になる講堂へ。
長山さんと田坂さんは俺にくっ付いて来る。これ、言葉通り、明穂みたいに俺と手を繋いで腕組んで、しかも両側だから、見る角度によっては逮捕された犯人みたいだ。
「あーちゃん、校長先生から発表あるんだよね」
「そうみたい。要らないんだけど」
「でも、この学校だと快挙なんでしょ?」
「そうらしいけど、それでも要らないんだよね」
なんか後ろ向きだとか言われてるけど、そういう目立ち方はしたくない。
小説を読んで面白いね、って言ってくれる人が居れば、それで満足なんだけど。
講堂に行くと多くの生徒が集まっていて騒々しい。
明穂はクラスが違うから今居る場所からだと見えない。ちゃんと名簿順に並ぶ必要もあるから、普段接点のない人が俺の前後左右に居るし。
「さっさと終わらせて欲しいよな」
「校長の話なげーからな」
「あたし立ち眩みしそう。貧血だから」
「あたしは低血圧で朝起きれないんだよね」
長いのは確か。なんで校長先生の話って、要領悪くて長いんだろ。
女子のそれ、ないって。貧血ってなにか知らない人って多いんだよね。低血圧も勘違いしてるだけだし。たぶん自律神経の乱れでしょ。夜遅くまでスマホで遊んでれば乱れるって。
暫くすると始まったみたいで、全員とりあえず黙るから、講堂内が静寂に包まれた。
校長先生が壇上に立つといつもの長話から始まって、十分以上経過してから俺の受賞の話に。
「えー、我が校から初の快挙を達成しました」
あんまり興味無さそうな生徒が多数。
「今年度全国高等学校文芸コンクールが開催され、我が校からエントリーした生徒が受賞となりました」
そんな説明要らない。
適当に端折って終わればいいのに。
「えー、その生徒は二年E組、浅尾大貴君です。最優秀賞、文部科学大臣賞、新聞社賞の三つを手にした、将来有望な生徒です。みなさん。拍手を」
義務的な拍手なんて要らないんだけどな。歓喜したのは明穂と身内と少しの人。長山さんはいまいち、ピンと来てないみたいだったけど。明穂の喜び方はやっぱり期待してただけに、本当に祝福してくれてた。
だらだらと拍手が続くと、隣の人が声を掛けてくる。
「文芸コンクールってなに?」
ほら、殆どの生徒はそれを知らない。
「小説書いてよかった作品を表彰するやつ」
「へー。そんなのあったんだ。とりあえずおめでとー」
他の生徒も話し掛けて来た。
「それって、全国っていうくらいだから、高校全部?」
「全部じゃないと思うけど、文芸部がある学校はエントリーしてると思う」
俺も良く知らない。けど、優秀な作品が集まるのは確かだと思う。
その中での一等賞。だから、すごいんだろうけどね。
「じゃあ名誉なんだ」
「そうかもしれないし、それで小説家になれるかって言ったら、また違うし」
「そうなんだ」
拍手が鳴り止むと暫く朝礼が続き、終わるとぞろぞろ退出する。
関心のあるなしに関わらず、とりあえず話し掛けてくる人は多い。殆どが自分のクラスの人だけど。
「おめでとー」
「やったじゃん」
「隠れた才能って奴?」
「文芸部だったんだ」
文芸部に所属してることすら知らない生徒多数。
半数は祝福の声を掛けてくれるけど、明日には忘れてるんだろうな。
教室に戻ると何人かは声を掛けて来て「おめでとう」とか「頑張ったんだ」とか「意外な才能だね」とかだった。
長山さんがこっちを見て「照れてる?」とか聞いてくるけど、照れるもなにも、全部形だけの祝福だからなんとも思わないし。
授業が始まるとみんな机に向かい、黙々と受け続けて昼休み。
明穂が弁当持参で教室に来て、そうすると俺の机を中心に島ができる。明穂に長山さんに田坂さんと、いつものメンバーで固まると、他の生徒も何人か傍に来るし。
「浅尾って女装だけじゃ無いんだ」
「すごいんだね。全国なんでしょ」
「可愛いだけじゃなくて、才能もあるんだね」
「どんな小説書いてるの?」
ちょっと注目浴びてるけど、女装だけって俺ってどんな人なのさ。
どんな小説を書いているのか、なんてのは、文化祭で文芸部に来てれば読めたんだけど、これ、いちいち説明するの?
「大貴の作品は主に文学文芸。読む人が読めば感動間違いなし」
「難しいの?」
「そうだね。普段本を読まない人には、わからない部分も多いかも」
「なんか読めるのないの?」
部誌に載せた奴ならあるから、それを読んでもらえばいいのかな。
そう思ってたら明穂が「興味あるなら部誌のコピー渡す」だって。
放課後になって明穂と合流して部室に顔を出すと、また後輩女子が近寄ってくるし。
「先輩。質問です!」
「なに?」
「どうやったら先輩みたいな小説書けるんですか?」
これ、質問なの?
小説って自分の頭の中にある妄想の発露でしか無いじゃん。どうやるもこうやるも無いと思うんだけど。
「想像力じゃないの?」
「じゃあ、先輩は想像力が豊かなんですね」
妄想力は確かに磨きをかけて来たかもしれない。
「大貴、いい加減だなあ」
明穂に突っ込まれたけど、俺のような小説を書く方法なんてあるなら、みんな実践してるでしょ。
「でも、そんな方法があるなら俺も苦労しないんだけど」
「そこはちゃんと言ってあげないと。同じような小説を目指してる限り、先は無いよって」
それはまたきつい言葉。
俺と後輩は違う。男子と女子の違いもあるし、他人だから経験もなにもかも違う。同じものを目指すのは違うし、自分を表現するんだから、自分に拘らないと意味が無いのは確かだろうけど。
「駄目なんですか? 先輩を目指しちゃ」
「駄目、とは言わないけど、俺と……えっと名前なんだっけ」
「先輩、ちゃんと名前覚えてください。悲しいです。あたしは津島咲ですってば。咲ちゃんって呼んでくださいって言いました」
絶対呼ばないって、そう思ってたから名前忘れちゃったんだ。
さすがにこれは無い、と思ったのか明穂が「咲ちゃん程度なら許すから、名前くらい呼んであげたら?」とか言われてしまった。後輩を見ると泣きそうだし。仕方ないから津島さんで。
「えっと、津島さん」
「咲ちゃんです」
「つし」
「咲ちゃんって呼んでください」
なんで、そんな呼び方に拘るかなあ。
「もう……わかったよ。え、えええみちゃん」
「先輩」
「えっと、なに?」
「抱いてください」
それ、無いって言ったはずだけど。この子、聞きたくないことは聞かないタイプ?
「無いってば」
「少し分けて欲しいです」
「明穂に言われたでしょ」
「でも疼くんです」
なんとかならないの? 俺の周りに居る女子って、変な子か無関心か両極端すぎて、付いて行けない。
明穂を見るとやっぱ冷めた目付きだし、怖いし。
「無いから」
「先輩。固いです。きっとあれも硬いんですね」
言いながら体を押し付けないで欲しい。なんか、明穂みたいなこと言ってるし。
聞きたいことがある、ってのは口実で俺と付き合いたい、それが本音でしょ。教えてもらうなんてのはどうでもいいんだ。
「あ、明穂。これなんとかして欲しい」
「自分で解決するんだよ。いつもあたしが居るわけじゃ無いし」
ここで突き放すかな。俺って試されてる?
でも、絶対零度の凍てつく視線が向けられてるんですが。
「先輩」
だから体を押し付けないで。
しかも手を誘導しない!
「無いんだってば」
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