Epi45 お買い物デートする
「大貴。これどうかな? テーブルに飾るのにいいと思わない?」
明穂が手に取って見せているのは造花の花だけど、彩としてなら良さそうだ。
今、俺と明穂は百均に来ていて、キャリーバッグを各々持ち込んでいる。荷物が増えると想定して手に持つのは無理との判断からだ。
「いいと思う」
「花瓶はこれでいいよね」
「いいと思う」
「テーブルクロスだけど、これ派手かなあ」
同じ返事を繰り返していたら口で口を塞がれた。
「大貴。さっきから同じ」
「いや、でも、明穂のセンスと俺のセンスじゃ、明穂を優先した方が間違い無いし」
「違うんだよ。肯定しつつもちゃんと自分の意見も言わないと」
わかりません。
実際問題、俺のセンスで口出しすれば、文句が出るのが予想される事態で。挙句、肯定しつつ自分の意見ってなんなの?
「あの、自分の意見ってなに?」
明穂の頬が膨れ気味になってる。これは気分を害したって奴だろうか。
「あのね、あたしが選んだもの、それ自体にはいいね、でいいんだけど、その後に大貴がひと言、色味とか種類も適切だから、とか言うんだよ」
意味がわかりません。肯定したらそれで良さそうなのに。ひと言コメントを求められても、特に意見は無いし結局肯定したコメントなら、言っても言わなくても同じな気もするんだけど。
明穂を見るとちょっと残念そうだ。
「大貴はまだまだ乙女心を勉強しないとだね」
乙女心。
人生初の彼女だからそんなの理解できるはずもない、とは言えないから。
「ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
と言ったら、頭に手を置かれて「茶化さないでちゃんと覚えるんだよ」と言われてしまった。
まるで子ども扱いな気もするけど、明穂が相手じゃ仕方ない。何にしても経験が無い俺といろいろ経験してきた明穂だから、その差は歴然だし。
少しすると今度はアクセサリーのコーナーを見て回る。
「女子には可愛らしさの演出も必要だからね」
明穂は飾らなくても充分だと思う。素のままで誰よりも輝いて見えるし。性欲の権化でなければパーフェクトだし。なんて、俺が言うとただの贅沢だよなあ。
「この髪飾りどうかな?」
明穂が自分の髪に当てて見せて来てるけど、これ、どう答えると正解なんだろうか。なにを身に付けても身に付けなくても、明穂の外見は文句無しなんだけど。あ、ヤバい。つい裸を想像しちゃった。
「大貴。想像で楽しまなくてもいいのに。じゃあ、今日は帰ったら楽しむってことだね」
見透かされてるし、藪蛇になったし。
「でね、この髪飾りだけど」
「明穂はなんでも似合うと思うんだけど」
「ぶぶー! 不合格」
なんで?
「なんでも、なんてなにも考えてないコメントはアウト。髪飾りの色と髪の毛の色が合うね、とか、その髪型だから似合うんだね、とか言うのが正解」
難易度が高過ぎるんですが。
髪飾りを付けた明穂を見るのも初めて。それだとなにが合ってなにが合わないか、比較検討のしようも無いんだけど。と言いたいけど機嫌を損ねそうだし。
「あ、大貴。これどうかな?」
これは名誉挽回のチャンス?
でも、似合ってる以外の言葉が思い浮かばない。明穂は本当になにを身に付けても似合うんだもん。すべての造形が完璧なんだよ。とは言えなにか言わないと駄目な訳で。
「えっと、似合ってる。その毛先のカールと相性がいいと思う」
苦笑されてるのは気のせいでしょうか?
「大貴」
「なんでしょう?」
「あたしの髪型の名称知ってる?」
さっきの俺の回答は駄目ってことだよね。
髪型の名称なんてもちろん知る訳もなくて、ただ、ふわふわした感じで愛らしいなって、その程度だったし。
「ごめん。わかんない」
「あのね、今のあたしの髪型は、前髪を流したロングだけど、ローレイヤーって言うんだよ。上の髪を短くして下の髪は長めにカットしたもの、つまりこれ」
自らの毛先をいじりながら「レイヤーの意味はわかるよね?」と言いながら、解説されました。
女性に関して勉強しなきゃいけないことが多そうだ。
「こういうカットって、あんまり飾らなくても愛らしさが出るから、人気のある髪型なの。だから髪型云々って言っても無理があるんだよ」
学校の勉強以上に難しいです。俺には難易度が高いだけに留まらない。
女子の髪型を意識することなんて無かったし、そもそも女子に相手されないから、迂闊に見ると変態扱いされてたし。
「教えること、たくさんあるね」
「はい。面目もありません」
「でも、大貴だからちゃんと覚えて理解してくれると思ってる」
その根拠はなんなんだろう。
「文章表現にも幅が出るよ。いろいろ知って行くと。だから大貴なら大丈夫」
女性を知ることで文章の表現力が向上する、ならば俺の場合はちゃんと学ぶと。
確かに知ってるのと知らないのじゃ、文章にも雲泥の差が出るんだろう。これから小説家を目指すなら知って損はない、そう思ったんだろうな。
まだ小説家になれるなんて、宝くじに当たるより確率低いと思ってるけど。
「髪飾りはこれとこれにしよう。大貴はなにか好みある?」
「えっと、明穂は素でも可愛いから」
「裸が一番だと思う? だったらやっぱ全裸生活は欠かせないよね」
そうじゃなくて……。しかも「なんだかんだ言って、やっぱ全裸が好みなんだね」とかじゃないんだってば。「今夜は萌えるよー」って、なに言ってくれてるの? それにしても、なんでそっちに行っちゃうんだろうな。
店内を回り続けること一時間程で、だいたいの小物は揃えられた。
「荷物だけど、これどこに保管しておくの?」
「あたしの家、って言いたいけど邪魔だし学校に持って行こう」
「今から?」
「今からだよ」
明穂に引き摺られて一度学校へ行くことに。
学校に着くと部室へ行き、荷物を出して全部並べておくんだけど、他の部員は誰一人居ない二人っきりの空間。こうして見るとなんか不思議な感じ。いつもは複数の部員と明穂が居るからかも。
「大貴」
なんかヤバそうな雰囲気が明穂から漂ってる。
「ここでエッチしたら問題になるかな?」
やっぱそうだった。
「駄目だってば。校内での如何わしい行為は禁止だって、先生言ってたでしょ」
「バレなきゃいいと思うんだけどな」
「そういう問題じゃないと思う」
「大貴はそういうとこ固いよね。アレよりずっと硬そうだし、そっちがもっと硬かったら痛いのかな?」
脱線明穂は留まることを知りません。
「ならないの?」
「えっと、なにが?」
「お〇ん〇ん」
ちょっと眩暈がした。どんな硬度になるのかって話しだよね。
「ならないと思う」
「残念。なったら試したかった」
際限のないスケベ明穂だった。でも、そんな明穂でも大好きだし。
部室を後にすると「今日はどっちの家にする?」とか言ってる。
「まっすぐ帰って休みたい」
俺を見つめても答えは変わらないんだけど。
「それってあたしが大貴の家に泊まるってことだよね」
「少し違うと思う」
「なんで?」
「俺一人で帰ってゆっくり休みたいって」
半身が仰け反る程に驚かなくても。なんかユニークな動きするんだよね明穂って。
「大貴、それ、あたしを放置して餓死させる気なんだ」
「なんで餓死なの?」
「だって、大貴っていうご馳走にありつけないんだよ。餓死するじゃん」
最早意味不明。
俺の肩を揺すって「大貴のお〇ん〇んを食べる権利がある」とか言い出すし。もう、アレとかじゃなくて、そのものずばりの名称口にしてるし。
言ってて恥ずかしいとか無いのかな?
「あの、明穂さん」
「なに? 食べていいの?」
「じゃなくて、名称ずばり言って恥ずかしいとか無いの?」
「恥ずかしい訳無いじゃん。大貴のだよ?」
明穂に恥じらいを求めるのは無駄でした。
結局明穂はずっと俺に張り付いて、家にまで来て部屋に入るなり、お義母さんに電話して泊まるのだと言っていた。
俺の母さんには毎回来てるから、ってことで食事の支度もすると言ってる。
「いつもお世話になってるから」
「そう? じゃあお任せしてもいいの?」
「勿論です」
お世話になってるってのもあながち間違いじゃない、とは思うけど、それは大義名分で実態は俺のため、ってのが事実だとか自分で暴露してた。
正直者なのかと思うけどなんか違う。
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