第3話 好きこそものの上手なれ
五月の連休明け。
学校生活や部活も落ち着いたころ。
帰りが一緒になった花子さん。
何かがいつもと違う。
「なんかいい匂いがする……」
「あ、気づいた? 今日の部活で作ったの。ほら、
「ち、
「料理研究部」
「花子さん、料理できたんだな……。勝手にできないと思ってた」
「なんでよ! うち、お母さん仕事忙しいし、弟はまだ小学三年生だから、家事は私の仕事なのです! それに、私は元々料理好きだから!」
「そうなんだ」
「食べる?」
「食う!」
あ、意外と美味い。
「俺、詳しく分かんねぇけど美味いな。正直、運動後に、こんなモチモチしたのはないと思ったけど、美味い」
「ははは、ありがと。お茶飲む?」
開いてないペットボトルが出て来た。
「いいのか?」
「どうぞ。部活でお腹すいてたでしょ。調理室から見えてたよ、ひたすら走ってたもんね、陸上部員さん」
「まあな。ところで、
「ううん。端午の節句があったでしょ。だから、『
「なぜそのチョイス?」
「先輩がね、「関東は『柏餅』じゃー」「関西は『
「へぇ……。でもおかしい」
「何が?」
「何か、それとは違う甘い匂いがする」
そう少し花子さんに近づいたら距離を開けられた。地味に傷つく。
「嗅覚犬並みだね。豆太と張り合えるよ。当たったからこちらもどうぞ」
「マドレーヌ!」
「やたらと蒸してたから、手の空いた時間に、余った材料で作ってたの」
「やった! って、ん?」
「なに?」
「
「え!? あー、ほら、調理室だから冷蔵庫あるし卵とかあるし小麦粉も常備してあるっていうかあっておかしくないでしょうね、型だっていっぱいあるし器具には事欠かないよ! よろしいかな、太郎くん」
「まあ、そいうもんか」
帰りにスーパーに寄ると言って、花子さんは商店街の方へ行ってしまった。
そして、マンションのエントランス。
ランドセルを背負っている少年がいる。
「今帰りか? 遅くねぇ?」
「こんにちは。姉がいつもお世話になっております。放課後児童クラブです」
花子さんの弟。
本当に小学校三年生かと思うほどにしっかりしている。
「さっき花子さんから聞いたぜ。お前の姉さん料理上手だな」
「はい。美味しいです。お母さんより美味しいです」
「それ言うと、母さん泣くぞ」
「気をつけます」
「さっき姉さんにマドレーヌもらった。お前も食べるか?」
「マドレーヌ……」
そう首を傾げた。
鞄から出すと、エレベーターの中で甘い良い匂いがした。
「いえ、大丈夫です」
「そうか? まあ、家で食べれるか」
「はい、GW中は毎日食べたので、もうしばらくはいいです」
「毎日?」
エレベーターが開いて家の前まで来ると、ドアを開けるときに弟に声をかけられた。
「あの、太郎さん」
「なんだ?」
「姉は本当に料理が好きだし上手なんですが、それは食事になるようなものだけで……。お菓子作りは壊滅的に苦手です。なので、だいぶ頑張ったと思います」
そう言って弟は家に入ってしまった。
「ん? どういうことだ。まあ、今度お礼でもすればいいか」
『好きこそものの上手なれ』
好きなことは自然とやる気が出てくるから上達しやすい。
っていうか、
好きな人を意識すると上手くなるまでやるんです。
「お姉ちゃん、太郎さんのこといつ好きになったの?」
「おばあちゃんちの犬の散歩の時かな……。てか、食材持ち込んだの、気づかれなくてよかった……!」
今回は、策士は策に溺れませんでした。
諺 考えよう 佐藤アキ @satouaki
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