蒼い鳥籠
蛹が蝶になるように人間も魂となる。
今日ある若い娘が死んだ。死因は流行り病だった。両親はひどく悲しんだ。それは魂への羽化を許さない病だからである。
娘の肢体はラピスラズリ色に変わっていた。皮膚も固く、まるで宝石の彫像のようであった。だが、それも繭には違いない。背が割れて魂が出てきてもおかしくない。
体の硬化は誰しも起こることだからだ。
だとしても、蒼い繭は羽化しない。普通は死んでから満月を二個数えると羽化できる。でもこの病に罹れば、魂は蒼い檻なかで歌い続けることになる。
比喩ではない。夜に死体は生前と変わらぬ声で、やさしく月夜の歌を歌うのだ。
「ふた月み月数えても、少年少女の身は映えぬ、よ月いつつと数えれば、かの幼さは華と散る……」
月数えの歌は、百数えるまで聞くと、その者も病で身を石にするという。
だが、この娘は違った。
夜ごとに殻を叩き詩を詠む。
「ふた月み月数えては、乙女の身は映え羽を磨ぐ、よ月いつ月数えれば、かの幼さは永遠と知る、月を百まで数えれば、普遍の翼が夜に咲く」
そして百夜が過ぎた。殻を叩く音は軽く、背が割れて光とともに現れたのは、小さな金のカナリアだった。
蒼き籠の金糸雀病という名の通りだ。
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