詩人の愛
「愛している」
私が指に絡めた髪は、力なくほどけて空気をなぞった。額や頬をなでて、首筋、胸、胴の曲線に至っても返事はない。冷たいそれは私の体温を奪い、指先の感覚を遠くした。
私が言葉で殺したのだ。
私が「愛している」と言えば、物も生命もそれぞれの終わりを迎える。
はじめての友達だったブロンドの少年人形も、愛のひと言で肌が割れ、ふた言目で関節をつなぐ糸が切れ、み言目で服に虫が群がった。そこに残ったのは人形の死体、何であったかもわからない割れ物の山だった。
次にできた友達、近所のお屋敷のお嬢さんも、ふと友達から親友になろうとしただけで、謎の病に罹って会えなくなった。会えない辛さに想いが募るうちに、ある日、母から彼女が死んだことを聞いた。
だが、私は愛さずにいられない。相手への最高の愛にならなかったとしても、自分の欲に負けてしまう。
散れば醜く、終わり知らずは面白くない。
終わりを知る散り際の花の、儚くも鮮やかに咲く姿は、何度味わっても飽きない最高の美だった。
でも安易に「愛している」とは言わない。愛あっての美だ。愛したものが崩れ去るから悲しく恋しいのだ。
だから私が抱くこの子に最後に言う。
「永遠に愛している」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます