詩人の愛

 「愛している」


 私が指に絡めた髪は、力なくほどけて空気をなぞった。額や頬をなでて、首筋、胸、胴の曲線に至っても返事はない。冷たいそれは私の体温を奪い、指先の感覚を遠くした。


 私が言葉で殺したのだ。


 私が「愛している」と言えば、物も生命もそれぞれの終わりを迎える。


 はじめての友達だったブロンドの少年人形も、愛のひと言で肌が割れ、ふた言目で関節をつなぐ糸が切れ、み言目で服に虫が群がった。そこに残ったのは人形の死体、何であったかもわからない割れ物の山だった。


 次にできた友達、近所のお屋敷のお嬢さんも、ふと友達から親友になろうとしただけで、謎の病に罹って会えなくなった。会えない辛さに想いが募るうちに、ある日、母から彼女が死んだことを聞いた。


 だが、私は愛さずにいられない。相手への最高の愛にならなかったとしても、自分の欲に負けてしまう。


 散れば醜く、終わり知らずは面白くない。


 終わりを知る散り際の花の、儚くも鮮やかに咲く姿は、何度味わっても飽きない最高の美だった。


 でも安易に「愛している」とは言わない。愛あっての美だ。愛したものが崩れ去るから悲しく恋しいのだ。


 だから私が抱くこの子に最後に言う。


「永遠に愛している」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る