道具としての心

 伝説の道具は案外そこらにあったりする。


「情動搭載アンドロイド零号、100円……」


 エッセイの取材で入った骨董屋だが、陶器に紛れこんなものがあるとは思わなかった。


 判断のため情動をプログラミングした試作機、現在のアンドロイドの姉だ。


 うちの子も歴史として語ったこいつが叩き売りとは愉快千万、ネタとして買わずにはいられない。あいつもお姉さんができて喜ぶ。まああいつの喜びは無機質だが。


 やさしい笑顔の爺さんに100円を渡し、100センチほどの体を背におぶる。


「重っ、これが歴史の重みってやつかぁ」


 大きさの割に鉛の塊のようだ。だがシリコンの肌は時間を感じさせない。滑らかな質感に軽く淡い光を宿す。


 ただ試作機なのにやけに美少女だ。現実にいそうな、でも少しデフォルメの効いたlike animeな顔をしている。粗末なワンピースの内を探れば、胸や性器も再現されているようだ。


『試作機の制作者は変態』


 落とさないように背を丸め、メモにそう記した。


 息も絶え絶え家に帰ってきた。


「おかえりなさい、ま、せ?」


 うちの子が一瞬フリーズする。


「タオルにする? 水? それともお楽しみ?」


「お楽しみかな?」


 この時、情動をめぐる物語がはじまった。

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