獅子の末裔

 老剣士の最後の仕事は、自らの遺志を継ぐ弟子を育てることだった。


 後の世の歌に、老兵は死なず消え去るのみという歌詞がある。だが老兵は違った。彼の後ろには血と嫉妬が付いて回った。伝説に語られる神兵の名を蘇らせた男だからだ。


 彼はひとりで幾千もの敵を相手し借りつくした英雄、黄昏色の獅子の子孫だった。しかし老兵が身を土と敵の血で黄昏色にするまで、英雄はさびれたおとぎの果てにあったのである。彼はおとぎを真と証明したのだ。


 だがそのせいで死んでも名に縛られた。


 黄昏色の山猫の名は、彼が愛する息子たちも憎む。剣に武を志す者はいつも彼と比較され、誰もが彼を食いつぶそうとしたのだ。


 それに応え山猫はいつまでも兵士だった。国を捨てようと、善なる人間という概念に忠を尽くし、剣を血に染めた。


 それゆえ最後の仕事は弟子の育成だった。人間愛を糧に剣をふるう猫を求めた。


「名より心に尽くせ」


 心こそ彼の主人だった。


 血を継ぐめくらの詩人の猫は、この言葉を山猫の叙事詩で高らかに歌う。錆びて杖となった剣で地を打ち、血濡れた人間愛とともに。


「終わりを悟った山猫は、盲の弟子にかく語る『名より心に尽くせ』そして両者は剣を交え、彼は兵の血の海に沈む」

 

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