ワンルーム群の秘密

 街道から細い道に入り、一度曲がればそこは人の住むためだけの場所が広がっている。どんな人がいるかわからない。どんな人でも歩くし出てくる。


 そんな有機の街だ。 


 私はその有機体の一細胞に過ぎない。私が消えても誰かが増えても変わらない。私たちはお互いのことを知らないし、知っても不気味に思うだけだ。


 特に向かいの美青年。彼は日のある間、ずっとカーテンを閉めている。だが夜になるとカーテンを開けて、よく空を眺めている。目があえば手を振って挨拶してくる。私も慣れたもので、すぐに手を振り返せるようにはなったが、あの美貌と血色の悪さは妖しさも感じる。


 といっても私も変わらないのだ。向かいのお兄さんも、同類だからか否か、私の正体には薄々気付いているのかもしれない。


 私は現在、世界で最後に悪魔を召還した魔術師だ。約百年前のアレイスター・クロウリーが最後と言われていたが、私がそれを塗り替えた。


 ただ、その代償として、部屋が大変汚くなった。血の甘く錆びたようなにおいは消えない。


 それに霊媒にした身元不明の少年が、ここに住み着いて口も利かず色々奉仕してくれている。


 仕事帰り、部屋のにおいにはうんざりだが、この笑顔だけはたまらない。

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