チクショウと思えば畜生の影

 何かのフンを踏んでしまった。某スペクターさんの言うクールギャグではない。右の靴裏には、粘つくような不快感が確かにある。これがギャグやジョークなら、どれほどいいことか。


 しかも私はこの場から動けないでいる。普通に踏んだなら憤慨して、野良なら犬自身を、違うなら飼い主を責めて立ち去る。だが私はギャグのせいでなく、恐怖で心が冷えている。


 なぜか。


 靴裏で何かがうごめいているのだ。


 私はそれをふんだと思っていた。刹那に見たのは茶色いモンキーバナナ型だった。だがこれはフンでなく、踏まれたのは私なのかもしれない。


 証拠にいくらふんばっても潰しきることは叶わない。小動物を踏んだにしては血もなく丈夫で、足裏の脈動は化物の息吹を思わせる。


 見るのが怖い。


 突然の強烈なフィクションに、酔いをこえて気を失いそうだ。それでも理性は知的好奇心を煽る。


 知りたい。真実を知り、またひとつ経験を得たい。


 私は呼吸も忘れ、化物を解き放つ覚悟をかためた。しょせん大きさは小動物。それにすぐ襲い掛かってくるとは限らない。理性で恐怖が溶けていく。恐怖は油となり、油圧式マイレッグを動かした。


 「ワンッ!」


 それは茶色いミニマムダックス「フン」トだった。

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