北も南もない日常

「今日も学校だ」


 寒さで目覚めた寝不足の朝、ため息交じりにつぶやいた。


「アオイ朝ご飯!」


 私は朝ご飯じゃない。でもそんな野暮な返しはしない。


「わかった!」


 洗面所で軽く口をすすいで、食卓に直行する。


 テーブルにはすでにお父さんとお母さんが座っていた。父は雑誌を読みながら、くちばしで魚をつまんで丸のみにする。母は白い毛を血に汚しつつ、近所のコロッとしたお兄さんだったものを食べている。


「おはよ」


 挨拶すると父は雑誌を置き、視線を私に注ぐ。


「おはようアオイ、昨日のピングー見たか?」


「見なかった」


「あのトドは怖いもんな」


「母さんの方が怖いよ」


「それは言えてる」


 食卓にあふれるささやかな笑いは父と私だけ。母さんはいつも無言で食べている。

邪魔したら私たちが朝ご飯になるかもしれない。隣のお兄さんがひょこっと頭を出したら、牙と爪の餌食になったみたいに。


 そんなこんなで親子の会話を済ませたら、私はコーヒーでトーストを流し込むようにして食事を終え、支度して外に飛び出した。


 登校時の装備は厚く重い。早く脱ぎたい。


 だから肌を焼く冷気を早く越えよう。人も熊も鳥もない、多様性に満ちた温かな学校が待っている。全凍結の世の温もりだ。

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