#チョムポンタンN2.09助 を根絶するための協力を!
ちびまるフォイ
#そのハッシュタグってなんの意味?
「あ! あの人のハッシュタグ見て!」
道路を挟んだ向かいに立つ人の頭の上には
「#オシャレ大好き」というハッシュタグがついていた。
「ちょっと話してくる!」
友達を差し置いて横断歩道を突っ切って向かいの男へ走っていった。
普段は自分から声をかけることなんてできもしないけど、自分と同類だと思うととたんにハードルが下がる。
「あの、あなたもオシャレ好きなんですか?」
「ええ、そうですよ。あっ! あなたも同じハッシュタグなんですね!」
「そうなんです。友達につけてもらったんです」
「ボクもですよ。自分じゃ自分にハッシュタグつけれませんからね」
「あはは。そうですよね」
男の人との会話はとくに意識することなく長く続いた。
好きなブランドとか、コーデの組み合わせとか、自分の好きなことをとことん話せる。
同じハッシュタグの人を見つけられて本当によかった。
「今日はありがとうございました。
つい盛り上がっちゃって、私ばっかり話しちゃいました」
「ボクも楽しかったですよ。あの、もしよかったら同じ固有ハッシュタグをつけてもらえませんか?」
「え!? 私でいいんですか!?」
「あなたがいいんですよ」
二人だけの特別なハッシュタグをつけるのは、お互いが特別な存在であると思えるものだった。
お互いのイニシャルと今日出会った日の数字を組み合わせた独自のハッシュタグをつけた。
「これでよし。これでボクたちは同じハッシュタグ仲間だね」
「なんだか恥ずかしいですね……」
「ボクはこのハッシュタグを見つけたらどんなに離れていても迎えに行くよ」
その日は人生最高の日だった。
鏡で自分の頭のうえにあるハッシュタグを見るたびに顔がニヤついた。
「おかえり。あんたそのハッシュタグどうしたの?」
「んーー? おしえなーい」
姉に聞かれてもハッシュタグの意味は秘密にした。
二人だけの特別な世界には肉親にも入ってほしくなかった。
新しく得たハッシュタグに浮かれながら学校へ行くと友達が同じ質問をぶつけてきた。
「そのハッシュタグどうしたの? どういう意味?」
「べつにーー?」
自分だけが特別であることをあえて明かさない優越感にどっぷり浸かる。
「どういう意味なのか教えてよーー。"#チョムポンタンN2.09助"って」
「は!? なにそれ!?」
「いやハッシュタグつけるじゃん」
慌ててトイレにかけこみ、自分のハッシュタグを確認する。
昨日まではなかった意味不明なハッシュタグがついていた。
「なによこれ……一体誰がつけたのよ!?」
妙に悪目立ちするハッシュタグはたちまち学校中に広まった。
みんななにか意味があるんじゃないかと聞いてくる。
「だから! 私も知らないんだって!
誰かが勝手につけたんだから!」
「どういう意味なの?」
「本当は知ってるんでしょ!?」
「教えないことでマウント取りたいの!?」
「ちがうってば!!」
知らぬ存ぜぬで通し続けるほどに「なにか隠している」という色が濃くなった。
ついにはハッシュタグ警察が学校内へ駆けつけてくる。
「いたぞ! #チョムポンタンN2.09助 だ!」
「「「 確保ーー!! 」」」
屈強な警察が私の体を抑え込んだ。
「なにを隠している! #チョムポンタンN2.09助 はなんの暗号なんだ!!」
「私にもわからないんです!」
「しらを切るつもりだな! 今に見てろ!」
あっさりと逮捕されてハッシュタグ監獄へと輸送された。
#チョムポンタンN2.09助 はますます広まって、麻薬密売の仲間への暗号だとか。
さまざまな憶測が飛び交っても真実にたどり着けないことから噂はさらに広まった。
「はぁ……なんでこんなことに……」
ハッシュタグ監獄に投獄されている人たちはみな不名誉なハッシュタグや、
その人の犯した罪をハッシュタグとしてひっさげている。
きっとこの監獄を出た後ものこの不名誉な前科を晒し続けながら生きていかなくちゃいけないんだ。
「ハッシュタグ番号101! 出ろ!!」
「看守さん、私の処遇が決まったんですか!?」
「ああそうだ。お前は死刑になることとなった」
「し、死刑!? なんで!? 私が何をしたんですか!?」
「そのハッシュタグが何よりの証拠だ!」
「だからこれの意味はわからないんですよ!」
はぁ、と呆れた看守は1枚の書状を突きつけた。
「お前のハッシュタグを世界で著名な研究機関をはじめ、
あらゆるメディア、専門家たちに調査を依頼したところ意味がわかった」
「え!?」
「そのハッシュタグ、外宇宙に住む敵性宇宙人への信号だったんだな!!」
「ええええ!?」
「それは意味のない言葉のように見えて実は意味がある。
この地球の惑星には資源がたくさんあって、侵略するにはうってつけだと
他の宇宙人たちに知らせて地球を危機に陥れようとしているんだろう!」
「私みたいな一般人がそんなことできるわけないじゃないですか!」
「お前の言葉なんか信用できるか!
お前よりもずっと学がある人間がそう断定したんだぞ!!
どっちを信用できるかなんて一目りょう然だろ!」
私のあずかり知らないところでついたハッシュタグは、
地球に危機をもたらす悪魔のメッセージであるということでメディアに広まった。
人間を絶滅に追い込む悪魔として死刑は大々的に報道された。
私の頭の上には死刑までの日付がハッシュタグとして印字された。
「はぁ……ついに #死刑当日 かぁ……」
死刑執行官に案内され重い足取りで死刑台へと向かう。
「なにか言い残したことや伝えたいことはあるか」
「あります」
「そうか。ではそれだけを伝えておこう」
「ちょっ……いまのありますが言い残した言葉じゃないですよ!
私がいいたいのはこのハッシュタグに意味なんてないってことです!」
「まだいうか!! 他にもたくさんの著名な専門家や、有名なタレント
信頼できる新聞社や報道機関がこのハッシュタグは危険だと伝えているんだぞ!!
お前ごとき一般人の安い言葉が信じられるわけ無いだろう!」
「みんな騙されてるんですよ!」
「問答無用!! お前を死罪にしてこのハッシュタグが消えればすべて問題ない!!」
死刑執行官は持っている斧を振り上げ、ギロチンへとつながるロープを断とうとした。
しかし、振り上げられた斧はそのまま背中の方に落ちて死刑は中断された。
「あ……れ? どうして……?」
数秒前までは死を覚悟していたのに。
「まさか、わかってくれたんですか!
このハッシュタグになんの意味がないってことを!!」
人間には誰だって良心がある。考える力がある。
たとえどんな権威にさらされても揺るがない人を思う気持ちがある。
それが今。私の死刑執行を止めてくれたんだ。
死刑執行官はハッシュタグの1点を見つめながらつぶやいた。
「このハッシュタグ、めっちゃいいね付いてるじゃん。
これ殺しちゃったらすっごい批判されそう……」
#チョムポンタンN2.09助 の死刑に対して送られた多くのいいねが一人の命を救った。
#チョムポンタンN2.09助 を根絶するための協力を! ちびまるフォイ @firestorage
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