第7話

 Tの合図で、いっせいにゆっくり潜り始めました。潜るにつれて、周囲が次第に濃い青色に煙っていきます。ちょうど青い霧の壁に包まれてしまったようで、そう遠くまでは見通せません。仲間の姿と吐き出す泡が見えるばかりです。しかし下に目を向けると、逆に沈没船の姿がだんだんはっきり、大きくなっていきます。水面近くからでは幻のようで現実感がなかったのが、だんだんと細かいところまではっきり見えてきて、視界一杯に広がってきました。

 そして、不意に現実の船として目の前にそびえたったのです。

 そう、まさにそびえたったという感じでした。水面からみたときの感じとはまるで違っていて、何か圧倒されてしまい、しばらくボーッと眺めていましたが、軽く肩を叩かれて、僕は我に帰りました。振り向くと、Tがみんなの方を指さしています。僕はあわてて泳ぎ寄りました。打ち合せどおり、僕達は船の周囲を回り始めました。

泳ぎながら見ていくうちには、気もしずまって、最初の印象も薄らいできました。どうやら、ふだんは見えることのない喫水線より下の部分まで加わっているので、実際以上に大きく見えたようです。一瞬クイーンエリザベス号でも沈んでいるのかと錯覚しましたが、それほどではありません。せいぜい中型の客船くらいの大きさでした。

船は、海面から想像したよりは、だいぶ傷んでいました。朽ち果ててしまってはいませんが、滑らかだったはずの表面も錆だらけで、魚雷にでもやられたのでしょうか、横腹には大きな裂け目があいています。そして、そんな傷跡をかくすかのように、小さな生き物達がびっしりとはりつき、海の塵が静かにふりつもっていました。僕はふと、この船が一番華やかだったときは、どんなだったのだろうかと思いました。

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