第129話 突入決定(後編)
パリス・ヒュウ伯爵が手を挙げ、突入の手順について考えを述べた。
「ここはアリー・ハサン伯爵の申し出を受けて、リンたち剣闘士奴隷にまず突入して貰いましょう。彼らにはマグダレナ嬢が捕らえられている2階に侵攻して貰い、救助を優先に戦ってもらいます。
我々警務隊は騒ぎを聞きつけて駆け付けた形で周りを固め、別棟の管理人と接触して屋敷の内部の様子を確認します。その上で我々も突入して、1階から地階を押さえる事を優先します。騒ぎを大きくしない為にも、周りの屋敷へ戦いを波及させない事が必須です。
実際にゴブリンが居る証拠が出れば、剣闘士奴隷たちと共闘しても問題が無くなるので、後は共同して屋敷の解放を図りましょう」
「分かった。その手順で行こう。アダム、何か提案があるかい」
アダムはゲールで屋敷を捜索した際に、火玉を使って床と壁に穴を開けたが、その時に思いついたことがあった。
「はい、リンたちが突入する前に、ゴブリンでも消せる程度のボヤ騒ぎを起こして、敵を混乱させてはどうでしょうか? 2階の侵攻を助ける意味で、ゲールを使って奥の方の部屋の扉に火玉で穴を開けて混乱を起こすことは可能です」
煙突の穴を通って個別に部屋に入っているので、フロア全体の様子が分かっていない。何枚か扉に穴を開けて混乱させれば、ゴブリンが慌てて扉を開けたままにして、もっと全体像が分かるかも知れない。
「確かにここが敵地だったら、屋敷の裏手にでも火を点けて、ゴブリンを焙り出して外で戦う方が良いのだが、火災になったら周辺の屋敷へ延焼するのが心配だ。扉に火玉で穴を開けて驚かす程度だったら良いと思うが」
「大丈夫です、パリス・ヒュウ伯爵。今回ゲールを使って床に火玉で穴を開けさせましたが、火災を起こさない様に空気を冷やして調整出来ましたから。驚かすだけなら出来そうです」
「逆に、敵が破れかぶれで火を点けないか心配だな。パリス」
「ええ、オルセーヌ公。近隣の屋敷とはそれなりに離れているのですが、火災が大きくなれば延焼の危険はありますな」
オルセーヌ公が敵が追い詰められて火を放ってくると心配だと言った。
「やはり戦闘が始まったら一気に殲滅するしかありませんな。私を含めて騎士団の精鋭を正面に揃えて一気に畳みかけましょう。どうやっても相手が火を放つ恐れは残りますからね」
「分った。それでは、警務隊は周辺を固めて、敵が火災を起こした場合も想定して混乱が起こらないよう手配してくれ。突入に際しては、まずアダムがボヤ騒ぎを起こしたところで、リンたちに突入させる。リン、部隊の人数はどの位かな」
「はい、10名で突入します」
オルセーヌ公の質問に、リンが前に進んで来て答えた。今日はアリー・ハサン伯爵が表立って参加できないので、リンが事前に全権を任されて来ていた。
「警務隊は直ぐに別棟の管理人に声を掛けて、屋敷の内情を確認する。別途捜索隊をリンたちに続けて突入させ、1階及び地階の捜索を開始する。更にゴブリンが確認できた所で、正面から騎士団が突入して一気にゴブリンの殲滅を図る事にする。現場指揮はパリス・ヒュウ伯爵が正面で行う。捜索部隊はオットー隊長が指揮する。オットー隊長、捜索部隊は何名くらいかね」
「はい、15名を予定しています」
リンと同じようにオットーが一歩前に出て答えた。
「分かった、騎士団はアラン・ゾイターク伯爵に任せる。そっちは何名ぐらいかね」
「50名連れて行き、30名で突入する。後の20名は警務隊と一緒に屋敷の前後に備えさせ、出て来たゴブリンが逃げないように固めさせる」
アラン・ゾイターク伯爵が答えるが、オルセーヌ公に目線を遣って懸念事項も話し出した。
「ゴブリンの死骸が出れば、グランド公爵も文句を言わないと思うが、背景や経緯が分かる証拠があれば、きちんと残すようにしよう。事前に騎士団を動かしたのは私の判断として説明する」
「ああ、頼むよ。彼の事だから証拠も後から捏造されたと言いかねんからね。それでも、敵が爆発するまで待っていても、彼が上手く始末出来るとは思えない」
オルセーヌ公からすれば、自ら手を出さないで、事が起こってから宰相に後始末させた方が、責任も明確になって都合が良いが、結果国益を損なっては意味がないと考えているのだろう。
「アダムたちはどうするつもりだね」
「はい、我々はオットー隊長と一緒に入って、2階のマグダレナ捜索を手伝います。アンは現場指揮所に待機して救護班を手伝って貰います。闇の司祭との戦いになったら、アンの『命の宝珠』が必要になるかも知れません。その前にマグダレナを救出したいと思います」
アダムがリタの事件の時の、実体の無い悪意との戦いの事を言うと、オルセーヌ公も不安を隠さなかった。
「そうだね。普通のゴブリンに手を焼くとは思わないが、ゴブリンの王に成ったと言うガイと闇の司祭については、ちょっと読めない。最後はアンとアダムの魔法で闇の御子に対抗しなければならないかも知れないね」
こうして幽霊屋敷のゴブリン討伐が開始されたのだった。
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