第130話 決行日当日
幽霊屋敷へ突入すると決めた日は休日で、決行は深夜と決まった。リンたち剣闘士奴隷が突入するにしても、人目を避けて動くためだ。警務隊や騎士団へも当日の朝に緊急招集をかけ、王都に噂話が流れない内に一気に決行することになった。
アダムは朝から神の目を飛ばし、リンデンブルグ元辺境伯の下屋敷を上空からも確認し、改めて屋敷の配置や周辺状況を確認した。その上でククロウとゲールを使って、煙突を何回も出入りして、入れる部屋の配置を確認した。
本館の屋敷には3本の煙突があり、その前後の部屋が確認できた。
1本目の煙突に繋がる部屋は1階がプレイルームと食堂、2階がそれぞれ客室だった。ゴブリンの王となったガイは、何匹ものゴブリンにかしずかれて食堂に居た。大人のゴブリンの大半がこの部屋に居た。
2本目の煙突に繋がる部屋は1階が書斎と居間、2階が来客用の遊戯室と談話室だった。マグダレナが捕まって居るのは2階の談話室だった。
3本目の一番奥の煙突は1階の調理場に通じる煙突で、2階は洗濯室と作業室だった。この煙突は調理場に繋がっているため、調理場のかまどに火が入っている時は、熱気と煙で侵入は難しい。ゲールを使って一気に走り込んだが、アダムは心配で気が気では無かった。突入は深夜なので大丈夫だとは思うが、陽動を起こす時には、かまどに火が入ってない事を祈るしかない。
闇の司祭は1階の書斎が居間に居ると思ったが、結局見当たらなかった。地下階は奥の階段から確認出来ていないので、もしかすると地下階の奥に居るのかも知れなかった。
別棟は本館と中庭を挟んで向かいに建っているが、正門から入って手前に車止めと前庭があるので、その奥になる。別棟にはザップたち使用人の住居や車庫(馬車)、馬屋があった。
アダムが調べたことを図面に記入していると、オットーとリンが寄って来て覗き込んで来た。
「そうか、確認出来た部屋以外に、他の部屋がどの位あるかだな」
「そうです、オットーさん。こうやって図面に落とすと、本館は玄関ホールから奥に向かって縦長なので、きっと1階は玄関ホール、遊戯室、食堂、書斎、居間、調理場、2階が入口の階段を上がった踊場、客室、客室、球技室、談話室、洗濯室と作業場という感じですね。間に幾つか部屋が挟まっている感じです。奥の階段は1階の居間と調理場の間で、2階の談話室と洗濯室の間にあると思います」
リンも突入時を想定して図面を見ているようだ。顔を上げてアダムに質問した。
「要所に樫材の扉があると言っていたわね、アダム」
「ああ、リン、玄関ホールの階段を上がった踊場と通路の所と、奥の階段の手前で通路は遮断されていると思う。もしかするとその間にもあるかも知れないが、そこはまだ分からない。あと、オットーさん、地階は奥の階段からしか行けないと思います。それと奥の階段を降りた地階の先に、下水道への排水口があると思います」
夜になって夕食を取った後で、パリス・ヒュウ伯爵、アラン・ゾイターク伯爵、オットー、リンたちがガストリュー子爵の屋敷に再び集まって来て、最終打ち合わせが行われた。
アダムは昼間作った図面の写しを何部か作って置いて、それをみんなに渡しながら説明をした。
「分かっている部屋はこんな感じですが、闇の司祭だけは居場所が確認できないので、少し不安です。それと、突入しても仕切り扉を開けるのに手間取っていたら、逆に奥から押し込まれて、ゴブリンが溢れ出て来ることも考えられます。その場合は、この前庭と車止めの辺りで戦う事になると思います」
「わかった。突入を確認したら、騎士団は正門から前庭の辺りで待機して、オットーの連絡を待つ」
アダムが不明点を言うと、アラン・ゾイターク伯爵が力強く答えてくれた。
打ち合わせが終わり、それぞれが部隊を待機させている所へ戻って行く。リンが去り際にアダムたちに声を掛けた。
「それでは正門でお会いしましょう、アダム」
「分かった。俺たちは先に行っているつもりだ」
「リン、私もアダムと一緒に正門まで行くことになっているの。後で会いましょう」
「はい、アン様。タニアも一緒に突入する予定です。マグダレナ様だけでなくて、ソーニャも必ず助け出します。その時はよろしくお願いします」
「国教神殿の施術院から救護班が出る事になっているわ。任せて」
アンが請け負うと、リンは厳しい笑みをアダムたちに見せた。
「そうだぞ。俺たちに任せておけ」
「こら、ドムトル。何でお前が請け負うんだよ」
「ドムトルもありがとう」
ソーニャについては期待し過ぎないように自分達で言い合っているのだろう。リンは感情を抑えつつも、強い決意を感じさせたのだった。
「しばらくしたら、俺たちも出発しよう」
アダムがみんなに声を掛け、突入を待つばかりとなった。
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