懲役1パーセク

宮脇シャクガ

量刑、懲役1パーセク



「以上の罪状により、判決を言い渡す。量刑、懲役1パーセク」


主観時間およそ50年、相対時間10万年ほど、約3.28光年の彼方。

1パーセクの向こう側にあの人はいる。

星間物質の浪を越えて、磁気フレアの谷間を越えて、スイングバイを繰り返し尽くしたその先にきっと。

正確には今はまだ旅の途中だけど、私がたどり着くころにはきっと向こうで待ってくれている。

10年早いと言われたあの後に旅立ったあなたの時は止まったまま。

10年後の今からでもきっと追い付ける。



西暦という年号があったことが忘れ去られて幾星霜、人類の種としての版図はゆるやかながらも拡大を続けていた。

人類の生み出したはずの機械種は炭素を主成分としない何らかの生命と融合を果たし、人類の良き隣人となっていた。

そして、機械種の協力により、超高速通信、亜光速移動、その他多くの宇宙的な種族としての特徴を手に入れた人類種は、個体としてはせいぜい200年という短命にも関わらず、あるいは定命の者としての特有の熱心さをもって宇宙を開拓していた。


しかし、致命的な問題として亜光速移動の担い手が不足した。

存外やる気の人類種ではなくて、乗り物や相棒となる機械種の方である。

どういうことかというと、1光年とは現在の技術水準ではその由来すらも忘れ去られたSI系という単位系において、相対時間約3万年、距離片道1光年の時間的、距離的な流刑との変換が可能である。約3万年という時間すらも最高速で、最短距離を移動した場合の(他物体の重力による空間のゆがみは無視する)速さである。

PODで冷凍睡眠を貪る人類はともかく、船内を管理して、目的地まで安全に運ぶのは誰かという話である。

もはや単なる機械ならぬ人類の良き隣人でも流石に退屈はする。

動き続けるのはタダではない。

活動すればするほど船内は消耗し、活動していないときには事故の確率とトレードオフとなる。時には大胆に予定を変更し、通常空間に戻る選択すら迫られるだろう。

繰り返しとなるが、その判断を下すのは誰か?という話だ。



青く輝く船内にて


機械種がひとりごちる。

「それにしても、俺達の刑罰に付き合わされる人類種っていったい何をやらかしたらそうなったんだ?」


主観時間およそ50年、相対時間10万年ほど、約3.28光年の彼方。

でも、これからPODに入る私にとっては想いが通じる5分前。

1パーセクの向こう側にあの人はいる。

あの頃のあなたにきっと追い付けるから。


宇宙には不思議がいっぱい。

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懲役1パーセク 宮脇シャクガ @renegate

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