第六章 3
ガチャ。
ドアを開け、Ruriが悟の部屋に入ってきた。
「はぁ〜。どこ行っちゃったのかな〜。」
灯をつけリビングまで進み、誰もいない部屋を見回すと思わず愚痴をこぼした。そのままソファに腰を下ろしゆっくりと部屋を見回した。
主人が姿を消してまだ3日目の部屋は悟の匂いが残っており、Ruriは悟に抱きしめられているような感覚を覚えた。
「まだ、ここに居るみたい。でも、居ないんだよね。」
Ruriはしばらくソファで物思いに耽ったのち、立ち上がって目的のものを探し始めた。
昨日家に戻ると夜になって野本から悟の実家の住所と電話番号が分かったと連絡があった。すぐに悟の実家に電話をしたが、やはり悟は実家には帰ってはいなかった。悟の母に事情を説明して2日後に訪問して話を聞くことにした。
それで、今日になって悟の部屋に家族の情報がないかと探しに来たのだった。
「勝手にいなくなっちゃって、合鍵をくれてるんで全部見ちゃってもいいよね。」
と自分に言い聞かせながら机の中やクローゼットの中を探している。寝室の脇にある机の引き出しから年賀状の束をみつけた。
「無造作に束ねてるなんて、案外ズボラなのね。エンジニアなんでもっと几帳面に整理してるのかと思った。」
年毎に束ねられた束から今年のものを抜き出しご両親と弟さんからの年賀状を抜き出した。年始の挨拶はありきたりであっさりしたものだった。ご両親の年賀状には今年は里帰りするのかという問いかけがあった。
「あまり電話などはしていないみたいね。交流が少ないのなら明日はそれほど期待できないかな?それでも何かヒントが聞けたらいいかな。」
独り言を口にしながらさらに引き出しの中を確認するとメモ書きが見つかった。
10月7日(木) 13:00〜
勤労省7号館3階 遠山さん
「これって次のカウンセリングの日程?木曜日って言ってたもんね。悟さんこの日に来るかしら?キャンセルしたかな?でも、この遠山さんって人に会えたら何かわかるかもしれないわ。よし、大ヒントゲットしちゃった。」
明るくつぶやくとRuriは部屋の中の捜索に一層力を入れ、バスルームからキッチンまであらゆるところの引き出しを開けまくった。
だが、めぼしいものは見つからず、全てを元通りに戻し一息つくためにソファに腰を下ろした。
「ふぅ〜。結局年賀状とメモ書きだけか…。あんまりヒントになるようなものはなかったな。」
Ruriはソファで大きく伸びをした。ふと綺麗な白い天井が目に入った。
あぁ真っ白な天井。これってきちんと掃除しないとこの白さを維持するのって難しいよね。そういえば、悟さんの部屋ってきちんと掃除が行き届いていて生活感が薄いというか…。
インスピレーションで一緒になるって決めちゃったけど、ちゃんと付き合う時間がほとんどなかったのでお互いのことほとんど分かってない。
これからいろいろなことを一緒にして少しずつ分かりあうつもりだったのに。
あ〜なんかまたムカついてきた。
なにさ。自分で勝手に決めちゃって。自分は相手に負担をかけないために身を引くいい人のつもりだろうけど、やられた方はたまんない。
一度でも深く結びつくといなくなった時の喪失感は半端ないんだから。悟さんは寂しくないのかな?
私のこと忘れられるのかな?
あ〜やっぱり絶対見つけ出して一発ぶん殴る。
私を怒らせたら怖いってこと分からせてやる。
Ruriは勢いよく立ち上がると悟の部屋を綺麗に掃除して部屋を出た。
悟さんが見つかるまでは私が毎日来て掃除しなきゃ。ここに住もうかな、もう夫婦みたいなもんだからいいよね。
外に出ると秋の日差しが気持ちいい。
「まぁ、暗くなっててもしょうがないんで、やれることをやりましょう。」
そう一言呟くと、Ruriは駅の方へ歩き始めた。
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