第六章 1

 一体何があったの?


 あの時約束したはずなのに…


 あの後、治療を終えた悟さんと私は住吉先生のいる病院へ行き、悟さんは精密検査を受けた。

 検査の結果が出るまで悟さんは入院して療養することになり、私はひとまず自宅に帰り翌日の朝病院に行った時には悟さんがいなくなったと大騒ぎになっていた。


 あの時治療室で話したことは本気だったの?

 私が嫌だと言ったから思いとどまったんじゃ無かったのね。


 悟さんは決めていたのね。それを私が反対したから何も言わずにいなくなった。


 あぁ。何でそんなことを…


 いえ、悟さんは言ってたわ。私の負担になるのが嫌だって。


 そんなことないのに…


 あぁ、もう考えがまとまらない。


 考えていても仕方がないのに、どうすればいいかわからない。


 すぐに悟さんのマンションに行ったけど、綺麗に片付けられていて、管理人さんには長期で不在になると言っていた。


 治療をする前にもう決めていたのね。すぐにいなくなるつもりで用意をしておいて、次の日病院を抜け出した後マンションに寄って荷物を持って管理人さんに挨拶をして旅立った。


 どこに行ったか何の手がかりも残さずに。


 こんないなくなり方ってない。もう、知らない。


 嫌、嫌。知らないじゃない。寂しい。


 悟さん。寂しいよ。


 私たち、魂で繋がってるんじゃないの?


 二人でいつまでも一緒って約束したんじゃないの?


 嘘つき…


 探さなきゃ。


 でも、どうやって?


 とりあえず、職場に行って聞き込みかしら?

 それから、実家に行ってご両親にお話を伺って、弟さんもいるって言ってたわね。詳しいことは聞かなかったけどご両親なら知っているわよね。


 あぁ。だんだんやることがはっきりしてきたわ。これなら、何とかなりそう。


 悟さんはカン違いしてる。私の代わりに病気を引き受けてくれた悟さんには確かに引け目を感じるけど、そのことは私を苦しめない。勝手に悲劇のヒーローになんないでよね。


 全く、自分に酔ってるんじゃない?俺って彼女のために身を引くいい男って。


 冗談じゃないわよ。本当に勝手なもんね。まあ、まだ付き合って間もないんでお互いのことを深く理解する前に結構衝撃的な経験をしちゃったので混乱しちゃったのかもしれないけど…


 まあいいわ。今度会ったらたっぷりお説教してあげるから。覚悟しておいてね。


 悟さん。私のことみくびってるわね。私は待っててなんかあげないんだから。きっと見つけてみせる。

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