第五章 4

 治療が始まり、目を閉じた闇の中でRuriは不思議な暖かさを感じていた。


 坂巻とつないだ左手からじんわりと暖かくなってくる。少しずつその暖かさが体全体に広がってくると、今度は闇の中にほんのりとした明るさを感じ始めた。


 なんだか心がすっと軽くなって、日常の細々としたことを忘れさせてくれるようなほんわかした気分になっている。


 心配していたような他の人が入ってくる感じではない。Ruriはあまりの心地よさにより深い眠りに入りそうになっていた。


「Ruriさん。眠らないで。意識をしっかり持って下さい。眠ってしまうと治療が少し難しくなってしまうので、もう少し我慢して下さい。」


 坂巻の呼びかけにRuriは意識を持ち直した。


 すると心地よい暖かさに包まれた体の中で一点冷たいところが感じられた。


 一度意識すると心がその一点に集中していく。それは小さな黒い固まりに思えた。その固まりは暗く、ひんやりとした雰囲気をまとっている。そして、その雰囲気は周りの暖かさを徐々に浸食していくように感じた。


「感じましたか?それが病根とでもいうものです。今からその病根を保持して下河原さんに移します。」


 これが悟さんに移る。大丈夫かな。


 Ruriは治療が始まり初めて恐ろしさを感じた。


 Ruriの中で黒い固まりが少しずつ動き始めた。左手をつないだ坂巻の手にすい寄せられていく。固まりの動きに合わせてひんやりとした雰囲気も移動していく。


「緊張しなくてもいいですよ。物理的に存在するものではないので痛いとかはありませんから。」


「悟さんはこれを感じてる?」


「いや、まだ全然だよ。なんだかほのかに暖かく、明るい感じが全身に広がっているんだ。」


「これを感じてなんだか怖くなっちゃった。こんなの渡しちゃって悟さん大丈夫かなって」


「大丈夫さ。しっかり覚悟はできてるよ。それより、こんなにしゃべっていいのかな。」


「そうですね。もう少し集中していただきましょうか。もうすぐRuriさんの体から抜き出すことができるんです。」


 会話の間に黒い固まりはRuriの左腕の中に移動していた。もうすぐRuriとつないだ坂巻の右手に移りそうだ。


 あぁ。これで治るのかしら。こんなに簡単に。悟さんに移った後は悟さんをしっかり支えなきゃ。私のために引き受けてくれるんだもん。


 坂巻の右手に黒い固まりが移る頃、Ruriにはいろいろな感情が沸き上がってきた。


「今、Ruriさんから私へ移りました。あとは下河原さんに移すだけです。Ruriさんももう少しの辛抱です。」


 そう、これから悟さんに移るんだもん。もう少ししっかりしなきゃ。


 また新たにRuriの心に悟への想いがしっかり沸き上がってきた。

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