第五章 2
約束の時間に合流したRuriと悟は連れだって超能力科学研究室へと向かった。会うなりRuriは母がついて来ると言うのをなだめるのが大変だったとため息をついた。
道すがら、新しい門での日にふさわしく晴れ上がった空を見渡して、Ruriがつぶやいた。
「やっぱり、なんか怖いね。危険はないって言うけど、ほんとにうまくいくのかな。」
「今は信じるしかない。だめで元々。今より状況が悪くなることはないから、任せるしかない。僕はあの人たちは信じられると思う。」
「そうね。何度も考えたけど、なんでもやってみるしかないよね。」
日曜日のテンゲンは人で溢れかえっている。その人の波からはずれ、研究室のビルへ向かう二人はふつうの幸せそうな恋人同士に見える。
「もうすぐだね。こうやって一緒に歩いているだけでも幸せだけど。もう約束の時間だから、急がなきゃ。」
研究室に到着し、出迎えた高谷に案内されて治療台のある部屋に通されると、すでに用意をし終えた坂巻が待っていた。
医療用器機が揃っており、住吉医師や看護師もすでに到着して用意ができていた。
悟は住吉医師に近寄り、挨拶を交わした。
「お忙しいところ来ていただきありがとうございます。」
「いえ、ご紹介したからには私にも見届ける責任があります。ご相談うけた手配は済んでますのでご安心下さい。うまくいった後のあなたの治療も手配が済んでます。」
「いろいろありがとうございます。」
二人の会話が終わると坂巻はRuriと悟に向かって治療手順を説明し始めた。
「まず、お二人には術衣に着替えていただきます。その後治療台に仰向けに寝ていただき、軽い催眠状態に入っていただきます。これは、私どものスタッフに催眠能力を持ったものがおりますので、その力を使わせていただきます。」
「催眠状態ということは治療中は我々の意識は保てないということですか?」
「いえ、深い催眠ではなく治療に抵抗があるような心理状況を排除する意味で、物事を幅広く受け入れられるような心理状態になっていただくということです。ですので治療中の全ては認識可能です。」
「そうですか。出来るだけどのような治療がされるのか分かっていたいと思いまして・・・。」
悟は意識の有無にこだわっていた。自分の引き受ける病気がどのような状況で移ってくるのかに興味もあった。
「その後、私が治療を行わせていただきます。お二方の手を握らせていただき、私を通してRuriさんの病気が下河原さんに移ります。イメージとしてはRuriさんの病根が私に一度移り、もう片方の手を通じて下河原さんへ移動するんです。どういう原理か、どうしてこんなことが出来るのかは未だに判明していませんが、いままで12件やらせていただきました。」
「坂巻さんの中に留まったまま移動しないということはないのですか?」
「可能性は否定できませんが、いままではそういうことはありませんでした。そのような危険がないように事前にお二方の意志を充分確認させていただいております。受け入れられる方が土壇場で心変わりをなさることが一番危険ですから。」
「今まではそういう方はいらっしゃらなかったんですね。」
「そうです。みなさんの覚悟は相当なものでした。どなたも治療をすんなり受け入れていただいております。」
「病根が移る時ってどんな感じなんですかね?やっぱりぐいぐい入ってくる感じでしょうか?」
「意外とあっさりストンと入ってくる感じです。特段気持ちが悪くなることもありません。ただ、移った後は確実に病気になりますので体はその状態に陥ります。」
「そこは、これから自分で体験して確認することにします。」
「Ruriさんは何かお聞きになりたいことはありませんか?」
「いえ、特には・・・。 あっ、移った後は悟さんがこの病気になってしまうんですが、私の方にも病気が残ってしまったり、再発の可能性はあるのですか?」
「治療の時点ではRuriさんに病気が残るということはありません。今までの治療でもそのようなことはありませんでした。再発についてはなんとも言えないのは確かです。今までの例はRuriさんと同じ病気の方もいらっしゃいましたが、再発は今のところないようです。もっとも、そんなに長期間経っているわけではありませんので・・・。」
「最悪二人でこの病気ってのもありかな、なんて考えちゃって・・・。まずいですよね。ちゃんと治ろうって想わなきゃ。」
「そうですね、治りたいと出来るだけ強く想って下さい。意欲の違いがどのような影響を及ぼすのかもはっきりしないので出来るだけ危険性は排除しておきたいです。」
「わかりました。」
「では、お二方とも別室で着替えていただけますか?」
坂巻と高谷に案内されて、Ruriと悟は着替えのために用意された部屋へと向かった。
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