第五章 1
日曜日。
悟はいつもより早い午前5時に目を覚ました。
Ruriはまだ寝ているんだろうな・・・。
悟はシャワーを熱い浴びながら、Ruriのことを考えていた。
もし、治療が成功したらRuriは病気から解放される。彼女に当面の命の危険がなくなるんだから、新しい音楽活動に向かうことが出来るだろう。今回の経験は彼女の歌にまた深みをもたらすに違いない。きっと多くの人の救いになる。
悟の想いは回復後のRuriが多くの人に癒しを与えることに向いていた。
彼女の歌はこれから必要になる。自分も彼女を失いたくないが、この世界にも必要な人だ。俺は、彼女の病を引き受けることに喜びを感じている。もちろん、これからも彼女の歌が聴きたいし、彼女と一緒の人生を歩みたいとも思うので、この病気に負けるわけにはいかない。俺の場合には特殊な事情もないためにドナーが見つかる可能性もRuriより高い。きっと彼女と生きていける。
大した根拠のない自信が悟にはあった。
ただ、心配は俺の存在がRuriに負担を与えないかだ。彼女は俺のことを魂が近い存在だと言ってくれた。その想いは俺も同じなんだが、俺が彼女の病気を引き受けることによって負い目を感じさせて彼女の行動が制限されてしまうのが怖い。俺のために彼女の音楽活動が制限されてしまうのでは本末転倒も甚だしい。そこだけは注意しなければ。
シャワーを浴び終えた悟はキッチンで朝食を作り始めた。
Ruriとの待ち合わせはテンゲンで9時30分。
まだ、たっぷり時間がある。
俺はRuriが治った後、この病気を引き受ける。治療が中心の生活になるだろう。正直、どうなるのか不安だ。仕事は今のまま続けられるのだろうか?
休職ということになるとここまで培ってきたキャリアが滞ってしまう。
それでもRuriの命を救う方が大切だと感じている。俺の残りの人生を全てRuriに捧げる覚悟で今回の件を引き受けた。
後悔はしていない。 ・・・・はずである。
この病気による苦しみがどのようなものか分からないのに安請け合いをしてしまったと言うことだろうか?
病気が移った後の自分が苦しみに耐えられるか正直分からない。この治療は成功するかどうかも心配だが、成功した後どうなるかも不安だ。
思えばこれほど深く考えずに突っ走ったことは小さな時以来だ。大人になってからは慎重に慎重を重ね、確実な道を歩いてきたはずである。
それが、ここに来てこれほどの情熱にさらされるなんて・・・。
先の見えない道が目の前に広がっている。
不安はもちろんあるが、愛する人を救える喜びが大きい。
彼女の命と俺の命がつながるんだ。こんな気持ちが自分にあるなんて、今まで思いもしなかった。
考えられる限りの準備は済んでいる。後は実際の治療が成功することを祈るばかりだ。
支度を終えた悟は、Ruriの待つ場所へ向かうために部屋の扉を開けた。
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