第四章 4
「すみません。ちょっといいですか。出会ってからまだそんなに経ってないようなんですが、ここまで愛し合えるなんてうらやましいとも思うんですけど、なんか腑に落ちない感じもするんです。高谷さん、どうですか?」
「お二人の感情に偽りはないようです。時間や会った回数は愛情には無関係かもしれませんね。古い友人が急に好きになる場合もあるだろうし、会ってすぐ好きになる場合もあるでしょう。いろいろな場合を私は見てきているので、とりわけ不自然というわけでもないですよ。」
「そうですか。それなら室長に会っていただいた方がいいですね。私たちの判断では合格ですので、最終決定をしていただきましょう。下河原さん、Ruriさん。これからお時間いただけますか?事務所はここから近いのでご足労いただきたいのですが。」
「Ruri、どう?時間はある?」
坂巻の話に、悟はRuriに問いかけた。
「うん。大丈夫。今日も予定は入れてない。」
Ruriの言葉を聞いて高谷が二人を促した。
「それなら、早速参りましょうか。室長も待っていると思います。」
4人は喫茶店を後にして、テンゲン駅の反対側にあるという超能力科学研究室の事務所へ向かった。
事務所はこぎれいなオフィスビルの8階にあった。思ったよりきちんと案内ボード等も掲げてあるので、秘密の組織ではなさそうだ。
「ここへ案内されたということはほぼ合格と見てもいいんですね。」
悟は応接室に通されると高谷に聞いてみた。
「そうですね。室長は私よりレベルが上の能力を持ってますんで、どんなにうまくだまそうと思ってもだますことは出来ないんです。でも、今まで私の判断が覆ったことはありません。」
「そうですか。室長さんの面接に合格したら、治療はいつしていただけるんですか?出来るだけ早い方がいいのですけど。」
「そうですね。彼女の能力のサイクルが来週の日曜日にピークを迎えるので、その日が一番良いと思います。そのあたりは合格したら詳しくお話したいと思います。」
高谷がそう話したときにドアがノックされ、長身の年輩の男性が入ってきた。高谷より少し若く見えるが髪の毛は真っ白だ。
「初めまして下河原さん、Ruriさん。真下と申します。本日は突然でしたがお越しいただいてありがとうございます。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
真下の挨拶に悟るが答え、Ruriは悟に合わせて頭を下げた。
「高谷と坂巻から状況は聞きました。特に問題はないと思いますが、私から一つ質問をさせてください。」
「あ。はい。何でも聞いて下さい。」
「下河原さんは勤労省のカウンセリングを受けていらっしゃいますね。そこについて少しお話いただけませんか。」
「その話しは関係ないかと思って高谷さんにも話してないのに・・・。さすがですね。」
「高谷もわかっていたと思いますが・・。私は最終判断者なので一応自分で理解したいと思いまして。」
「そうですか。カウンセリングについては私の思考パターンが自殺者のパターンに近づいていると判断されて受けることになったんです。実際、自殺をしようと思ったこともありますし、理由はまだわかっていないですが。」
「思考パターンセンサーですね。かなり精密に思考の動きがトレースできるようですね。勤労省からの指示は何かありますか?」
「いえ、特には。このまましばらく様子を見ようと言うことで、毎週木曜日にカウンセリングを受けることになってます。来週、3回目になります。」
「そうですか。確かに生きていることに意味を見いだせない状態があったようですね。Ruriさんとの出会いで、そのあたりは解消しているようです。こんな感情は思考パターンセンサーでわかるんでしょうか。」
「どうでしょう。私にもあの装置はよくわからないんです。来週のカウンセリングでそのあたりが指摘されるかもしれません。」
「すいません。出来るだけ現状を漏れなく把握するために質問をさせていただきました。質問はこれで終わります。問題ないようですね。日程は高谷たちと打ち合わせして下さい。それでは。」
そう言って真下は応接室を出ていった。
「それでは、日程を決めましょう。坂巻君来週の日曜日に君の能力のピークが来るのでその日が良いと思うんだが。どうだい?」
「わかりました。では、日曜日の午前中が良いですね。Ruriさん、下河原さん10時にこちらまでご足労いただけますか?」
「僕は大丈夫です。Ruriはどうだい?」
「うん。大丈夫。ちょっと早いけどがんばる。」
「では、10時でお願いします。本日はありがとうございました。このことは関係者の方以外にはお話にならないで下さいね。」
坂巻の話に二人は無言で頷いた。
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